鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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(1) 序章 ジャン=ガブリエル・ダラニェス《パリの存在》 Jean-Gabriel Daragnès, かし模様として入れさせたことが明らかになった(注8)。さて、個別の作品については、これまで行った調査で挿画作品62点のうち12点について風景を同定した。本調査においては、まだ特定されていない作品の調査に主眼を置き、あらたに17点について、章のタイトルや描かれたモチーフを手掛かりに、地域や場所の見当をつけた上で、現地を訪れ一帯をくまなく歩き、該当する景色を探し特定を試みた。その結果、10点については実在の風景との一致が確認できたが、7点については解明に至らなかった。以下に、個別の挿画作品についての調査の結果を示す。なお、挿画作品のタイトルは、対応する章およびエッセイの題名と一致し、材質・技法、サイズ(cm)の表記については『北海道立近代美術館所蔵品目録』に従う。紙寸はいずれも35.0×27.3cmである。縦長の画面の手前には、馬に人物が乗っているブロンズ像のモニュメントと思しき建造物が、画面の左辺に切り取られて断片的に描かれている。画面中景には、自動車が何台も横切り、往来する人々の姿が見られるので、画面横方向に道路が走っていることが分かる。後景には、その通りと交差するように奥へと続く通りがあり、その左右の角には5階建て程の建物がある。通りの突きあたりにも同程度の高さの建物がある。これは、1区、セーヌ河中洲シテ島の西端に近く、「アンリ四世像 Statue équestre dʼHenriⅣ」の南側の脇から「コンシェルジェリー(王室管理府) Conciergérie」の方向を見た風景である〔図3〕。画面左端で切れているモチーフはアンリ4世像である。車の往来があるのは「ポン・ヌフ広場 Place du Pont Neuf」、画面奥へと通じる通りは「アンリ・ロベール通り Rue Henri Robert」 を「ドーフィーヌ広場 Place Dauphine」方向に見ている。左右の建物の間にわずかに木々が見えるところがドーフィーヌ広場、その奥に見える建物がコンシェルジェリーの正面と考えられる。アンリ四世像やコンシェルジェリーなどの建造物はあくまでも断片的に描き、歴史的な街並みを行き交う人々や車の喧騒がこの作品の中心的なテーマとなっている。Présence de Paris (エッチング・紙/プレートサイズ33.7×26.5)〔図2〕― 328 ―― 328 ―

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