鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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(2) 第8章 エドモン・シャルル・ケセー《サント・ジュヌヴィエーヴの丘》 Edmond Charles Keyser, La Montagne Ste-Geneviève (エッチング・紙/イメージサイズ17.0×26.5)〔図4〕(3) 第8章 モーリス・ド・ヴラマンク《サント・ジュヌヴィエーヴの丘》 Maurice de Vlaminck, La Montagne Ste-Geneviève (エッチング・紙/プレートサイズ33.3×26.0)〔図6〕横長の画面には、一本の道路の中央付近から、左右の建物と突きあたりの教会建築とが描かれている。両脇の建物は簡便な筆致で、奥の教会は遠方ながらより詳細に描写され、特に突きあたり左手はドームと塔を持つ教会、右手はゴシック様式の塔であることがわかる。この風景は比較的低い位置から捉えており、この通りが上り坂であることを示唆する。これは5区の「クローヴィス通りRue Clovis」を東から西へと進み、「デカルト通りRue Descartes」と交わる辺りで道なりに西の方を見たときの風景にほぼ一致する〔図5〕。画面手前左側には「アンリⅣ世高校Lycée Henri Ⅳ」が、その先に見えるのは「パンテオンPanthéon」である。右手の塔のある建物は「サンテティエンヌ・デュ・モン教会LʻÉglise St.-Étienne du Mont」である。通りの突きあたりに「サント・ジュヌヴィエーヴ広場Place Ste-Geneviève」を臨んでいる。「サント・ジュヌヴィエーヴの丘」は、この辺り一帯を指す。この界隈は高校や大学も複数ある文教地区であり、歴史的な街並みの中に生きる若い世代の存在が意識される。縦長の画面は、ほぼ対角線を引いたように区切られている。上部に雲の浮かぶ空、下部には道路、その左右には5、6階建ての建物が並ぶ。建物は縦横の線によって丁寧に描写されている。前景から後景へと、若干の勾配が緩やかにS字を描くように道が伸びる。この道路には、車が走り、道の端を歩く人々の姿も描かれている。これは5区の「ムフタール通りRue Mouffetard」を南から北に向かい、左手に「ヴェルムヌーズ通りRue de Vermenouze」と交わる付近から北方向に臨んだ時の景色とほぼ一致する〔図7〕。飲食店や食料品店が立ち並び人通りの多いこの通りの生き生きとした空気を伝える作品である。― 329 ―― 329 ―

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