鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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(8) 第26章 モイーズ・キスリング《モンパルナス》 Moïse Kisling, Montparnasse (9) 第27章 マルセル・グロメール《プチ・モンルージュ》 Marcel Gromaire, Petit-この作品には人物は描かれていない。70年前に造られた公園がすっかり自然の風景のようになじんでいる様子を描くことで、再び万博開催を控えた現代(1937年)に至る時間の経過を思わせる。(エッチング・紙/プレートサイズ34.0×26.5)〔図16〕交差点に立ち、正面に1本の通りが画面奥までずっと続く。通りには車が走り、通行人が幾人も描かれている。通りの左右には5、6階建ての建物が立ち並ぶ。空は建物によって大きくV字に切り取られたかのようである。これは、14区の地下鉄駅「エドガー・キネEdgar Quinet」を地上に上がったところを通る「エドガー・キネ通りBoulevard Edgar Quinet」の交差点から「ゲテ・モンパルナス通りRue de la Gaité Montparnasse」を東方向に見た風景である〔図17〕。「gaité賑わい」という名称のとおり、車や人の往来が多く、商店が並び庶民的な賑やかさのある地区である。行き交う人々の中の一員としての視点で街並みを描き出すことで、この界隈の活気を見る者に感じさせる作品となっている。縦長の画面の左半分には、鎖の結界で囲まれたモニュメントが大きく配置されている。一方右側には街路樹と、5、6階建ての建物が通り沿いに奥に向かって立ち並び、一番奥、画面の中央付近には高くそびえる塔が見える。画面手前には通行人や車が描かれている。これは、14区、六叉路の交差点がある「ダンフェール・ロシュロー広場 Place Denfert Rochereau」 から「ジェネラル・ルクレール通り Avenue du Général Leclerc」を「アレジア Alésia」 方面に見た風景である〔図19〕。画面左手のモニュメントは、ダンフェール・ロシュロー広場に立つライオンのブロンズ像である。また、画面中央に見える高い塔は、「サン・ピエール・ド・モンルージュ教会 LʼÉglise Saint-Pierre de Montrouge」の塔である。広い車道とその脇の幅広の歩道が整備され、通りに面して商店が立ち並ぶ。洗練された都会的な雰囲気の街並みは、通行人や車の往来が途切れることがない。この作品は、ダンフェール・ロシュロー広場の交差点を渡っている最中の人物、もMontrouge(エッチング・紙/プレートサイズ34.0×26.8)〔図18〕― 332 ―― 332 ―

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