鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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(10) 第28章 ローラン・ウド《パシー街の夢》Roland Oudot, Songes de Passy(エッ(11)その他の個別挿画作品についてしくは、車に乗って交差点に入った人物の低い視点を通して、通りがかりにとらえた街の喧騒を描き出したものである。チング・紙/イメージサイズ16.0×26.5)〔図20〕横長の画面中央付近に、建物がほぼ正面から描かれ、街路樹のある広い車道が建物の前を分岐点として左右に分かれていく。建物の前を走る広い車道を作品の前面に描いている。これは、16区、「ポール・ドーメ通り Avenue Paul Doumer」の西端、「ショセー・ド・ラ・ミュエット Chaussée de la Muette」通りと、「モーツァルト通り Avenue Mozart」の交わる地点に立ち、旧「パッシー=ラ・ミュエット Passy-La Muette」駅を望んだ風景である〔図21〕。付近には鉄道が通り、かつては「パッシー=ラ・ミュエット」という駅であった。建物は、調査した2016年11月現在、レストランとして利用されているが、正面には「La Muette / La Gare(駅)」という表示がかかっており、かつてここが駅として使われていたことを示している。鉄道駅と車道を中心にしながらも、整備された静かな市街風景として描いた作品である。エドゥワール・ゴエルク《ペール・ラシェーズ墓地》、シェリ=アンヌ・シェリアン《ペール・ラシェーズ墓地》、ジャン・フルロー《サンテ刑務所から国立ゴブラン織物工房まで》、ルイ・ネーロ《サンテ刑務所から国立ゴブラン織物工房まで》モーリス・アスラン《ベルヴィル街》、モーリス・サヴァン《ベルヴィル街》、エドモン・セリア《パシー街の夢》については、該当しそうな地区をくまなく歩いて調査したが、合致する風景を見つけることはできなかった。それが、描かれた風景が当時実在していたが現在は街並みが変化してしまって同定できなかったのか、それとも、描かれているのがそもそも実在の風景ではなく、画家のフィクションによるものなのかも、解明されていない。今後は、視点を変え、改めて作品の内容を分析すると同時に、これまでの調査方法についても検証する必要がある。― 333 ―― 333 ―

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