注⑴西欧中世のイニシアルについての先行研究は、例えば以下が挙げられる。LAMPRECHT, Karl:Initial-Ornamentik des VIII. bis XIII. Jahrhunderts: vierundvierzig Tafeln meist nach RheinischenHandschriften nebst erläuterndem Text, Leipzig 1882; SCHARDT, Alois: Das Initial, Berlin 1938;THIEL, Erich Joseph: Studien und Thesen zur Initialen-Ornamentik des früheren Mittelalters, Frankfurtam Main 1963; GUTBROD, Jürgen: Die Initiale in Handschriften des 8. bis 13. Jahrhunderts, Stuttgart1965; DEBES, Dietmar: Das Figurenalphabet, München 1968; PÄCHT, Otto: Die Initiale, in:Buchmalerei des Mittelalters, München 1984, S. 45-95; MAZAL, Otto: Das Buch der Initialen, Wien1985; SAUERLÄNDER, Willibald: Initialen: ein Versuch über das verwirrte Verhältnis von Schrift undBild im Mittelalter, Wolfenbüttel 1994, Nachdr. in: Romanesque Art: Problems and Monuments, London2004, S. 127-170; 斉藤稔 『イニシアルのデザイン:中世写本の装飾文字』岩崎美術社 1975年;越宏一『西洋中世の彩飾写本 ファクシミリ展』東京藝術大学藝術資料館 1984年。⑶COUSIN, Patrice: Les origines et le premier development de Corbie, in: GAILLARD, Louis, et al.:Corbie, abbaye royale: volume du XIIIe centenaire, Lille 1963, p. 22; GANZ, David: Corbie in the⑵カロリング朝写本のイニシアルについては、特に以下の研究が詳しい。JAKOBI-MIRWALD,Christine: Text - Buchstabe - Bild: Studien zur historisierten Initiale im 8. und 9. Jahrhundert, Berlin1998.式を再現することは困難を極める。本稿ではコルビー・コルヴァイ両修道院で制作ないし所蔵された、主に古書体学の先行研究によって一覧化された写本のうち、イニシアルを持つものを取り上げるという方法を採った。従ってこの手続きは、古書体学の研究成果への全面的な信頼の上で成立しており、今後の美術史学に於けるミニアチュールのより詳細な分析や写本学的観察が、既存の研究成果と少なからず反目する可能性は否定出来ない。8-9世紀のコルビー修道院は、カロリング朝期の修道院写字室では最も多彩なイニシアル芸術を開花させた地と言える。本研究の課題は、同修道院の装飾語彙豊かなイニシアルを、その娘修道院たるコルヴァイ修道院がどのように継承しているかを明らかにすることであった。動物文・植物文・幾何学文に加え人物像をも備えるカロリング朝期のコルビー写本と比較すると、コルヴァイ写本は些か装飾語彙に乏しく、従ってコルヴァイ修道院の蔵書が手本としたコルビー写本は、主としてフランコ=サクソン派の様式が支配的となった後のものであったと想定される。プレ・ロマネスク期のコルヴァイ修道院では、カロリング朝写本のイニシアルの持つ装飾語彙の全てを踏襲したのではなく、そのうちの一部、即ち幾何学文によるイニシアルを選択し、それを文字と枠組みの一体化というモニュメンタルな写本芸術へと変化させる道を選んだのである。― 375 ―― 375 ―
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