り、それぞれの状況と問題点を共有し、今後についての議論を行うことである。その背景には、2006年6月に同じノリッチで開催されたPWJAH(Postgraduate Workshop in Japanese Art History)があった。欧米と日本の大学院生によるワークショップで、従来は米国と日本で開催されていたが、初めて欧州で行った点で意味あるものだった。参加者のほとんどが、現在は高等教育機関や美術館などで中堅の研究者・教育者・学芸員として活躍しているが、改めて集うことで十年前のワークショップのフォローアップを行い、さらに広く若手研究者の参加を求めて、次代の日本美術研究を担う研究者のネットワークを形成したいと考えた。欧米における日本美術(文化)の研究は、いわゆるグローバル化のなか、ポストモダンと呼ばれる時期を経て変化しており、また、東アジアという枠組みの強調は、これに包摂される地域とその外部との二重性を生じ、欧米においても日本美術(文化)を捉える枠組みを複雑化している。美術館・博物館における「日本の見せ方」も、これと不可分の関係にあり、研究の現状についての認識を深めつつ、それが「なぜ」「どのように」行われており、また行われることが求められているのか、そのために克服すべき課題は何であるかを見直すことが必要となっている。これを踏まえて、具体的には、1)参加者が関わっているプロジェクトについて報告しつつ、2)欧州における日本文化研究の現状と課題についての議論を行い、3)継続的な国際交流の場を形成し、国境をまたいだ共同プロジェクトの可能性を模索し、4)そのためにどのような形の支援が必要かを探るというテーマを掲げた。2.シンポジウムの概要シンポジウムは、7月12日の午後の二つの基調報告にはじまり、その後、三つのセッションに分けて、合わせて二四の研究発表(一名欠席)があり、さらに全体を見渡しての四名のプレゼンテーションとパネルディスカッション、クロージング・リマークスをもって終了した。二日半のあいだに、合わせて三〇のスピーチがあるという極めて密度の高いスケジュールだった。紙数の関係で個々の発表のタイトルは省略し、発表者名と所属のみをローマ字表記で記しておく。また7月15日にはロンドンに移動して、大英博物館で開催中の北斎展(Hokusai: Beyond the Great Wave)を、担当学芸員のティモシー・クラーク氏の解説により見学し、北斎の作品についてまたその展示について議論した。― 482 ―― 482 ―
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