鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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生の派遣事業からITを用いての美術品情報の共有化など極めて多岐に渉った。時間的な制約もあって現状報告・事例報告を主とし、そこでの問題点を指摘するというかたちが多かったが、すべて発表者自身が担当している現場のリアリティが感じられるもので、同時に現場の個別的な問題から、欧米の観衆の期待するものについて、また日本美術(文化)研究の再構築に関わるような大きなテーマまで、多くの問題が提起された。その全体に触れる余裕はないが、たとえば地域による「ジャポニスム」の違いは興味深く、それぞれの現状と問題点を特定の分野の研究者を超えた範囲で共有するという目的も達せられたといえる。敢えて全体を纏めれば、対象としての「日本美術(文化)」と、これを受け入れまた展示・普及するコンテクストの双方の多様化が浮き彫りになったといえるだろう。美術館・博物館での展示も、河合が指摘した「民俗学的」なもの、また「鎧冑」「茶道」といったステレオタイプに属するものが、それらに対する観衆の期待とともに存在する一方で、本格的な古美術展が増え、また「春画」(大英博物館)や「具体」(グッゲンハイム美術館)のように欧米主導でテーマ化されたものがあり、さらに「クールジャパン」(ライデン民族学博物館)のようなサブカルチャーにまで対象が広がっている。それらは、たとえばマンガやアニメの受容が、新たな「ジャポニスム」と見得ると同時に、「クールジャパン」という日本政府の経済的な思惑のなかにもあるように、単純な構図では捉えられない。シンポジウムでは、ライデンでの「クールジャパン」が、日本政府とは関係のない自主企画だったという報告があった。「北斎」展も、前世紀にジャポニスムの対象であったものを、新たな視角で展示している。これらの事象は、欧米における日本美術(文化)研究の成果であるが、歴史的に背負うものを含めて、それら自体が日本美術(文化)研究の対象ともなるだろう。いずれにしても、欧米における「日本美術」のメニューは、ほとんどその全域を覆うほどに多様性を増しており、今後の研究・展示の展開が期待される。クロージングリマークスで島尾は、上記の内容の一部と東アジアという視点のなかでの日本美術の認識に触れ、合わせて日本から欧米への長期留学生が減少していることへの危惧を付け加えた。 (文責:島尾)― 485 ―― 485 ―

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