鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
506/507

同日午後3時より、学生を二つの班に分け、ジョン・C・ウェーバー博士のコレクションを同氏のレジデンスにおいて見学した。キュレーターのジュリア・ミーチ氏及びウェーバー氏自身により作品にまつわる様々な話題が提供された。作品は、「地蔵菩薩像」等の南北朝時代の仏画から安井曾太郎の人物画、漆器、染織、陶磁器にわたる多様かつ他に類のない希少な情報を有する作品が多く、それぞれの学生が自らの知識の外にある作品にも興味を持って接していた。見学終了後、午後6時より同所において、ウェーバー氏主催の着席によるディナーレセプションが行われた。これに先立ち、ウェルカムドリンクが提供され、ウェーバー氏が各学生一人一人に話しかけ、「どの作品が一番気に入ったか」「その理由はなにか」を質問され、その答えにうなずきながら作品にまつわるエピソードを語られていたのが印象的であった。ディナーの挨拶でウェーバー氏は、次の世代を担う若手の日本美術史研究者に対する期待を語られた。最後の夜ということで、参加者たちは名残惜しそうに互いに写真を撮りあっている姿に、1週間の会議で育まれた友情の深さを感じた。3月16日(木)午前で第11回JAWSの正式日程は終了し、ニューヨークのホテルにて解散、各自帰国の途につくこととなった。雪による予定変更があったものの、参加者の健康状態に問題は発生せず、全ての予定を無事に完了することができた。さて、開催期間中、公式行事とは別に、行事終了後の夜に若い学生たちが宿舎の部屋に集まり、実行委員も含めてJAWSの意義や美術史研究の今後について、毎晩、くり返し熱い議論を戦わせていた光景が、今後の世界における日本美術史研究の進展を支える大きな力になって行くであろうことを強く感じさせた。今次の第11回日本美術史に関する国際大学院生会議は、わが国における日本美術研究の国際化、また、優れた日本美術コレクションを有する米国における日本美術史研究の一層の進展を図るべく、これを大学院生という若い研究者のレベルにおいて促進することを目的とした。その成果は、日本国内外の若い研究者たちに、その研究方法の共通性や多様性を改めて認識させるとともに、同世代の研究者として共有される問題意識やその解決方法への展望を開くという極めて学問的刺激に満ちたものとなった。また、その場で築かれた深い友情は、今後のわが国の国際的な文化交流上に大きな役割を果たすものと期待される。― 494 ―― 494 ―

元のページ  ../index.html#506

このブックを見る