鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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注⑴Alfred H. Barr Jr., Picasso Fifty Years of his Art, New York, The Museum of Modern Art, 1946, p. 117;Pierre Cabanne, Le siècle de Picasso 2: Lʼépoque des metamorphoses(1912-1937), Paris, Gallimard,1992, pp. 577-578[ピエール・カバンヌ(中村隆夫訳)『ピカソの世紀 キュビスム誕生から変容の時代へ1881-1937』西村書店、2008年、672-673頁]; Linda Nochlin, “Picassoʼs color: Shemesand Gambits”, Art in America, vol. 68, no. 10, December 1980, p. 117.者は常に絵によって眼差しを伏せさせられる」(注34)。つまり、ピカソの絵に描かれた古来のメランコリーの図像は観者の眼差しを捕らえて離さないのである。ピカソはアングルが創作した女性の内面を表す身体形態を援用しながら、祖国の家族を案じるメランコリックなオルガの肖像画や人物画を描いた。また、ピカソが参照した古代美術のメランコリーの図像には、直接的か間接的にしてもアングルを介して得たものもあることに注目する。結び1920年代初頃に制作されたピカソの裸婦画や人物画、肖像画に表されたメランコリーの源泉について分析し検証した。本作品〔図1〕には多様な源泉が混ぜ合わされて、既主題が反復されていて、そこに人間の内面を表す表現として古代から伝播される普遍性を帯びたメランコリーの図像と表象が加えられている。社会的秩序の崩壊によって生じるアノミーのような疎外感もオルガの肖像画〔図19〕が物語っている。今後も、他のピカソ作品についても内面と造形性の表象の見地から研究を継続していきたい。謝辞 本調査に際し、アングル美術館館長フロランス・ヴィギエ氏、ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館学芸課長アネッテ・クルツィンスキ氏、ピカソ美術館(パリ)のピカソ公文書責任者ソフィー=アノペル・カブリニャック氏、作品保存管理者ピエロ・ウジェーヌ氏他、ご協力頂いた多くの美術関係者の皆様に感謝申し上げます。⑵Elizabeth Cowling, Style and Meaning, Phaidon, London, New York, 2002, p. 413.⑶メランコリーの図像に関しては次を参照。ヴァルター・ベンヤミン(川村二郎他訳)『叢書・ウニベルシタス ドイツ悲劇の根源』法政大学出版、1975年;田中英道「「メランコリー」の現代的意義」『西洋美術における「メランコリー」概念の史的考察』(昭和59・60年度 科学研究費補助金(一般研究B)成果報告書)、1986年、5頁。⑷サルヴァトーレ・セッティス(石井元章訳)「古代美術における瞑想、逡巡、後悔の図像」『西― 81 ―― 81 ―

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