鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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あった(E13758)。袖も筒袖で腰に紐がついており、前あわせを紐で締めて着用するようだが、本来の沖縄の衣裳形態としては現在までに確認したことがなかったため、明治時代後半の新しい形状の衣裳であろうと判断した。1-3.織物の衣裳織物の衣裳には、絹の絽織の衣裳、花織の衣裳、士族男性の礼服である「クルチョー(黒朝)」、綿の浮き織りの衣裳4点があり、花織(E13752)と絽織(E13742)の衣裳がワーナーの収集品である。花織は沖縄で発達した織物で、縫取織りと浮き織りの技法で文様が織り出される。浅葱色の袷仕立てで、さわやかな印象を与える。身丈から男性が着用したと思われる。浅葱色の絽織の着物もやはり男性の着用と思われる。ワーナーの収集品ではないが、E13738は琉球王国時代の士族男性の礼装である衣裳で、絹の綸子を鉄媒染で黒く染めたものである。鉄媒染のため、繊維が劣化し痛みが激しい。以上がPEMの沖縄の染織品であるが、ワーナーの収集した紅型、絣、絹織物のどれもが、作品として大変クウォリティの高いものであった。ほとんどがオリジナルの形状をとどめており、コンディションも申し分ない。日本に現存する沖縄染織のコレクションと比較すると、すべての作品において仕立替えがなされていないオリジナルの状態であるところが素晴らしい。また収集年と収集地が明らかになっているので、ベルリンのコレクションについで、基準作と成り得る可能性が考えられる。次の段階の調査として、ベルリンの作品と比較して、このコレクションの着用者がどの階級の身分のものであったのかを検討したいと考えている。2.Seattle Art Museum(SAM) 〔Table2〕参照黄色地に杜若と流水模様の紅型衣裳は絹の縮緬地で、仕立て直され腰紐がついている(89.155)。制作年代は不明である。桃色地に小花模様の紅型は衿が日本風の細い衿に仕立て直され、袖も角が丸く、袖付けにも身八ツ口がついている日本風の仕立てになっている(92.55)。白地に椿の文様の紅型衣裳は子供用に仕立て直されている。SAMが所蔵する沖縄の染織品は43点あるが、今回は衣裳類6点、断片16点の調査を行った。衣裳類は1989年、1992年、2001年と近年の収集であり、個人のコレクターと財団が所有していたものを寄贈されたことが分かっている。― 103 ―― 103 ―

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