鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
114/455

この文様は東京国立博物館などにも同模様の衣裳があり、当時人気のあった文様と思われる(2001.517)。いずれも制作年代は不明である。他の3点は芭蕉布の衣裳で、1点が縞、2点が型染めであった。型染めの1点は千鳥に青海波が飛び文様になっており、もう1点は絣風の文様が型染め出されている。芭蕉布に型染のものは今まで確認したことがなかったので、大変興味深かったが、糸の質や文様の配置などからみても、近年の作品といえよう。このような絣風の型染衣裳がいつの時代に作られたのか、今後沖縄での調査で明らかにしていきたい。16点の断片はすべて台紙に裏打ちされており、1991年にデヴィッド、マリタ・パリィ夫妻が寄贈したものである(91-220~234)。台紙にはそれぞれ素材、文様、制作年、着用階級が示されているが、果たしてこの記述がどこまで正しいのかは疑問の残るところである。特に制作年代については、いくつかの断片に17世紀とあり、紅型が文献で確認できるのが1800年頃なので(注8)、この記述に関しては信頼性が低いと感じた。3.Victoria & Albert Museum(V&A) 〔Table3〕2点は子供用に仕立て直されてもの(T.19-1963、T.21-1963)、3点が綿の袷の衣裳(T.18-1963、T.295-1960、T.296-1960)で、表裏ともに紅型である。1点はドゥジンという沖縄の衣裳で、丈の短い上着である(T.20-1963)。子供の衣裳はどちらも単衣で両面染がほどこされ、白地に流水杜若文様と浅葱地に芒と雁の文様である。T.18-1963の松に鶴と菊の模様は同模様が女子美染織コレクション、沖縄県立博物館・美術館に収蔵されている。裏の白地に牡丹の模様については類例を確認できない。細模様型(小紋柄)の袷の衣裳(T.295-1960、296-1960)とともに、衿に多少の仕立て直しがあったが、袖や身頃には仕立て直しの跡がなく、オリジナルの状態に近い作例と思われる。全体的にクウォリティが高い。V&Aでは6点の紅型衣裳の調査を行った。すべてがローレンス・ランヴィゲスという人物からの購入である。この人物は1954年頃に京都で古美術商を営んでいたオランダ系の人物で、スイスのバーゼル国立民族学博物館にも、沖縄の染織品を融通していた(注9)。この人物からV&Aも作品を購入した。V&Aの紅型作品は比較的状態も良く、白地の子供用のものなどは、染の質も良く、― 104 ―― 104 ―

元のページ  ../index.html#114

このブックを見る