4.国内のコレクションとの比較松坂屋染織コレクションの沖縄の染織品は、昭和9年(1934)に松坂屋が洋画家の岡田三郎助から購入している50点に及ぶものである。岡田がいつごろから収集を始めたのかについては、不明であるが、昭和3年(1928)に鎌倉芳太郎が関わっている啓明會が開催した展覧会の図録「創立十年記念展覧會図録」には、岡田所有の紅型衣裳「黄色地紅型大模様花紅葉雪輪門羽二重女物単衣」が白黒写真入りで紹介されているので、鎌倉芳太郎との関りから、紅型および沖縄の染織品をコレクションしたのだと推察される。岡田はその他にも日本の小袖や中国の染織品などの「古裂類」を好んでコレクションしていたことが知られている。筆者は2016年、2017年に同館の沖縄の染織品類50点を調査した(注10)。松坂屋染織コレクションの紅型衣裳の特徴は鮮やかな色彩と、目を引く文様にあるといえる。洋画家岡田三郎助の審美眼にかなった一級品が集められたことが分かる。黄色地に枝垂れ桜と流水杜若文様の紅型衣裳も含まれており、今回調査した館すべてに流水杜若文様の衣裳が収蔵されていた。この黄色地の紅型衣裳は、PEMのものと違い3つの異なる文様の型紙、つまり肩から裾にかけて、枝垂れ桜、燕、流水杜若のそれぞれの型紙を使用して、1つの大きな文様を描くように型染めされている。このような型紙の配置を鎖大模様型という。PEMの作品は1枚の大きな型紙を上から3度使用して染色しており、同じ模様が肩から裾にかけて3回繰り返し染め出されている。SAMの流水杜若模様の紅型衣裳も黄色地の鎖大模様型ではあるが、こちらは制作年が新しいと感じた。松坂屋美術館の浅葱地に青海波と桃、梅、牡丹の文様はPEMのものと同模様だが、こちらは単衣であった。この模様と類似している白地のドゥジン(上着)も同館(松坂屋美術館)に所蔵されており、青海波の文様が斜め格子になっているところが相違点である。松坂屋美術館の紅型衣装は紅型の文様や形態を網羅している感がある。また絣に関しても手嶋から芭蕉の絣衣装、嶋、格子など、考えられる沖縄の染織品すべてがコレクションされている。岡田三郎助が精力的にしかも短期間で沖縄の染織品を収集したのではないかと感じられた。5.3館の調査を終えて今回はアメリカにある2つの施設、ピーボディー・エセックス・ミュージアムとシアトル・アート・ミュージアム、イギリスのヴィクトリア&アルバート美術館に所蔵― 105 ―― 105 ―
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