鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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⑬金銅菩薩半跏思惟像の制作技法に関する実験的研究研 究 者:東京大学総合研究博物館 小石川分館 特任研究員  永 井 慧 彦はじめに東京国立博物館が所蔵する法隆寺献納宝物(以下、献納宝物と記す)中の、金銅N163号およびN164号の半跏思惟像(以下、東京国立博物館の列品番号に従い、それぞれN163、N164と記す)は、法量、形式、様式、構造が酷似し、細部には差異を有する特徴を持つ。その特徴から、同一工房や同一制作者、雌型を利用した原型の制作、一具の可能性などその造像について検討事項があげられる(注1)。また、像内の鋳肌から蝋原型に中型を詰めたとする意見もあるが(注2)、具体的な検討はない。二像の頭飾や、腹帯の有無、左手の仕草、衣文の構成などの細部には差があり、共通する造形の上に異なる個性を発揮した像といえる。その制作技術は造形言語を実現する重要な基盤である。これらについて制作技法から考えてみたい。さて、7世紀から8世紀は日本に仏教が受容、定着した時期で、大陸や朝鮮半島からの影響を大きくうけた。古代金銅仏の原型制作は、中型(なかご)を先に造り、蝋を被せて造形することが一般的な説明であるが、朝鮮半島では、蝋原型に中型を詰めたとされるものもある。例えば、朝鮮半島からの請来像とされる献納宝物のN143号一光三尊像中尊は、その裳裾と足と蓮肉の接続の構造から、蝋原型に型土を詰めたと考えられている(注3)。これら、中型を蝋原型に詰める制作では、中型に使う土の状態と詰め方や、中型の表面を整形ができないため、内部の鋳肌に不整形なバリや玉金を作りやすいとされる(注4)。また、統一新羅以降の作例では、背面に大きな巾置の孔を設けるなど、その制作に変化も見られる(注5)。では、二像の制作技術において朝鮮半島からの影響は見られるだろうか。金銅仏は鋳造技術に熟知し合理的な手順を組み立てることによって可能となった。制作技法は作例ごとに異なるが、制作技術を検討しその特性を明らかにする事で、技術の異同を深く考察することも可能になるだろう。朝鮮半島での金銅仏の制作古代朝鮮半島の金銅仏の制作方法は蝋型鋳造法であるが、内部を中空にするもの、無垢のものがあり、中空の状態も作例ごとに異なる。今回、韓国にて現存作例の一部ではあるが、調査する機会を得た。作品個別の詳細は別稿に改めることとし、制作技法について私見を述べる。― 132 ―― 132 ―

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