鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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朝鮮半島では、日本国内では見られない形式、大きさの作例もある。例えば、光背に浮彫り状にあらわす一光三尊像である。10cm前後の小型の一光三尊像では、中空の台座内部に型土を詰めたとされる(注6)。小型で単純な形態の一光三尊像の台座では、中型から順に制作するより作業効率が良い。では、小型の半跏思惟像についても同様ではないだろうか。半跏思惟像は片足を踏み下げて坐し、像と台座を一鋳する。また、像の内部は大まかに分けると、無垢、台座を中空とするもの、台座から体内部以下を中空とするもの、頭部までを中空とする作例がある。中空の状態については、作例ごとに異なる。ところで、小型の作例で台座を中空とするものについては、蝋を手捻りで中空に制作し、中型と外型を同時にこめる方が効率が良いだろう。中空部分は均一な厚みで、単純な形状から、その原型制作では、蝋板を貼り合わせたとも推測している。しかし、必ずしも工房において、その制作手法は一通りのみではない。中型を先に造る制作方法も併存していたであろう。蝋を用いた鋳造技術を基に、個別の状況に応じて技術の改変や補足が行なわれ、古代の金銅仏の制作例は多様である。また、7世紀後半以降の、背面に巾置の孔を設ける作例の特徴は、巾置の孔が大きくブロンズの厚みが薄い。薄いブロンズの原型は蝋板を曲げて制作する他、雌型の使用も考えられる。また、巾置や型持ちなどの外型と中型の固定構造が正面に見られないのは、像の美観上の為に正面での孔や柄を減らす目的以外に、型土のこめ方とも関係するだろう。背面の巾置から型土をこめることも考えられ、正面部には型持ち等の孔を設け難い。朝鮮半島に現存する金銅仏を確認すると、巾置の状態、内部の鋳肌の状態から、多様な制作過程が考えられる。従来説明される制作工程に対して、像の大きさや構造によっては、中空の蝋原型に型土を詰めた方が効率が良い。また、中型の固定方法は、制作過程全体にかかわり、型持ちと巾置の差は、鋳型の材料や設計手順の発想の差に結びつくと考える。半跏思惟像の制作について国内における作例でも、その構造は様々であるが、汎用的な制作手順として、中型、蝋原型、鋳型の手順が説明されている。これに従い、同手順でN163の制作を行なう。まず、制作に必要な詳細データについては主に『法隆寺献納宝物 金銅仏Ⅰ』(注7)に従い、東京国立博物館が公表する画像も利用した。計測具としてノギス、外パス、定規、曲尺などを利用した。次に、材料は、鋳型材料は真土(中型は荒土(メッ― 133 ―― 133 ―

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