鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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制作(仕上げの検討)金銅仏の湯口・あがりは鏨を使い切り落とす。湯口は周囲を切り落とし、あがりは、ブロンズの4分の1程度、切り込みを入れて叩き折る。仕上として、鏨による表面の整形、キサゲ・砥石による磨きを試し、金属の加工性と使用道具を確認する。面部、裙、左腕(肘釧~腕釧の間)、背の右で仕上の工具を試す〔図10〕。形の甘い表面の細部は、鏨による彫刻と叩き締める整形方法が有る。特に叩き締めることで、平滑にできる他、輪郭を強調しやすい〔図11〕。鏨は複数種類を併用し、細部の形態に合わせて造る必要があった。砂岩は不要に傷めることなく磨くことが出来た。磨いた部分には細かく鋭い擦痕が見られる〔図12〕。また、砂岩では鏡面光沢は得られない。砂岩はある程度の面積の平滑面を磨くために使いやすい。キサゲは鉄製のヘラ状の道具で、金属を掻き削るための刃をもち、細部の磨きに適している。やはり細かな擦痕がみられる。〔図13〕。いずれの道具もバリや玉金の除去には向かず、磨く前には鏨による整形は必要である。材料として、錫4%程度の銅合金は柔らかく、鋳造後の加工は容易である。合金の配合に関しては、鋳造における金属の流動性、鍍金の他、仕上げ加工性や耐久性も考慮されていただろう。結び朝鮮半島の作例を見ると、特に統一新羅以降の背面に巾置を設ける作例は、中型の固定構造・方法が特徴的である。金銅仏の中型の固定方法の差は像全体の制作方法や鋳型材料の状態に関わり、献納宝物の二像とその制作過程は全く異なる発想に基づくのではないだろうか。その差は、それぞれの制作技術の出自に由来するだろう。さて、実材を用いた制作は全く予定通りとはいかなかった。例えば、中型の乾燥によるひび割れや、座具の大さや形状が歪みである。蝋の厚みと中型に関しては、重量から推測される肉厚とγ線透過写真を参考にした推定であり、制作者の技量の問題とともに、材料、形状を実際と全く同一に出来ないという問題もある。ブロンズの鋳造欠陥は複合的な原因でおこるため原因を特定し難い。制作者や材料によるエラーは造形行為には付き物であり、その都度の対応が求められた。また、こうしたエラーは定められた方法から外れ、技術上における個性としての痕跡を残すこともあるだろう。二像の厚みは1cm前後と推定される。これは、雌型での蝋原型の複製や、手捻りで中空に制作するには厚すぎる。型による複製では、同時代では浮彫り状のものなど単純な形態が多く、二像において雌型を利用した蝋原型の複製の可能性は薄いと考え― 137 ―― 137 ―

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