鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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襞の近似が確認された。様式面ではアヴィニョンで使用する目的でパリの写本工房にて作られた可能性のあるウォルターズ美術館所蔵の時禱書(ms. 96)(1387-1394)(注23)との近接が指摘されている(注24)。色彩についてはアヴィニョン教皇庁の工房で制作された同時代の写本群(注25)に近い傾向をもつことから(注26)、エルシグの論文ではアヴィニョン出身の画家の手になるものとされた(注27)。3.ケルン写本とサン・ボネ壁画の比較頭部ケルン写本では、登場人物の年齢や身分、場面内での役割に応じた髪形や相貌が描写され、眉や唇の形により感情が示されることで人物の個別性が示される。その一方で、上下の瞼が厚い切れ長の眼、眉毛へとつながる鼻梁、上下に厚い唇、こうした各パーツが顔全体に占める比較的大きな割合といった特徴が全ての人物像において見られ、この点でサン・ボネ壁画の男性像に通じる。両作品に見る福音書記者ヨハネは〔図3〕、上述の点に加え、眉毛の角度、厚みのある唇を表現する際に中心に赤を入れ上下を白で挟む手法、唇のみならず鼻筋、瞼、額の凸部にも白のハイライトが大胆に入れられる点で共通するケルン写本の天使とサン・ボネ壁画の兵士の顔では〔図4〕三角形の目、鼻筋からつながる眉毛の角度、中心に赤を入れた厚みのある唇の形態に加え、唇の上下、鼻筋、額に入れられた白の用法が両者に共通する。ケルン写本の羊飼いをサン・ボネ壁画の福音書記者マタイと〔図5〕、青年のマギを天使と比較すると〔図6〕各パーツの造作、その配置のバランス、高い部分を強調する白のハイライトに加え、髪形についても同様の型が見られた。老年のマギに関しては〔図7〕顔の向きが異なるため造作の比較は難しいものの、額の刈り込みや短い前髪が共通し、額の皺や鼻筋に載せられた白において結びつく。ともに正面観で描き出されたケルン写本の聖母とサン・ボネ壁画の天使も同様の白のハイライトの用法に際立った類似が認められる〔図8〕。顔の長さはケルン写本で約1.5センチ、サン・ボネ壁画では壁面により異なるものの約20センチから35センチの間で丈がとられた。技法とそれに伴う寸法の違いにも拘らず、凸面を強調する特徴的な白の塗りは、両作品に極めて近い印象をもたらす。こうしたハイライトは、襞にも見出された。ケルン写本における人物の衣の襞は動きの強調された表現を特徴とする。これは図― 167 ―― 167 ―

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