鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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必需品」(注7)と捉え、華やかで斬新な広告を展開した。その弟の中山豊三が社長となったプラトン社は、約6年間の間に、豪華な執筆陣、美麗なデザインが特徴の『女性』や『苦楽』といった雑誌を刊行した。プラトン社が昭和3年(1928)に刊行した『女性のカット』は、山名が同僚の山六郎と共に、『女性』(注8)に掲載された2人のカットをまとめたものである。ここでは山名のイラストレーションを3つの観点から考察していきたい。・抽象化された女性像山名は生涯にわたり多様な女性像を描いた。〔図3〕では、余白の多い画面に、ボブカットのモダン・ガールが描かれる。背中にあるハートの形が組み合わされたマークは、単色の服装においてアクセントとなっている。山の作例と比較すると、互いにライバルとして意識していたためだろうか、一見すると作風は似ていて、サインが無ければどちらのものとも言い難いものがある。とはいえ〔図1、2〕などを見ると、山の作品は神経質とまでも言われるほどの鋭敏な線、砂目のような点描表現が特徴として窺える。山が抑揚のある肥痩線による描写であるのに対し、山名の描写は均一で端正な線による軽妙さがあった。最先端のファッションに身を包んだモダン・ガールを、シンプルかつ平面的に描くことは、山名の得意技であった。山名は女性の頭部のみを描いたカットも残し〔図4〕、中には瞳を省略し、唇や髪の毛を幾何学的に表現しているものもある〔図5〕。このようなカットは資生堂入社後の仕事にも度々登場するが、身体の各部分を造形的なパーツとして捉える意識があった〔図6〕。女性の唇は、墨一色で表現されて陰影がなく、その形が印象的に残るように描かれている。・V字型もしくは逆三角形の構図『女性のカット』には、V字型や逆三角形の構図を利用したカットが掲載されている〔図7、8〕。この頃、山も似たようなカットを描いており、プラトン社の雑誌『演劇・映画』の創刊号では、同様のモティーフが象徴的に登場する〔図9〕。様々なバリエーションが存在しており、線は、片側が細く、他方が太くなっていることもあれば、太さの異なる二重線、いわゆる子持ち罫が用いられることもある。両者が互いに影響を受け合いながら発展させたと言えるかもしれない。『女性のカット』の刊行後にも似たようなモティーフが登場するなど〔図10〕、V字型は山名によって持続的に描かれたモティーフであった。下部が鋭利に尖がったモティーフに対する意識は、逆三角形の色面を用いた表紙デザインにも現われる。大正14年(1925)の雑誌『苦楽』の表紙デザイン〔図11〕は、― 9 ―― 9 ―

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