(1387~1463)の『鴎巣賸藁』には「寒山」に対する賛として、「凡聖龍蛇一串穿、苕帚挽幾文錢、可惜三盞白家酒、醉倒文殊與普賢」(下線部筆者)という賛が収められている。「三盞白家酒」は『無門関』第10則として知られる「清税孤貧」から引かれた語。「清税孤貧」は唐代の僧・曹山本寂と僧侶との問答で、曹山は寒山詩に注を付けたことでも知られる。南江宗沅の賛では「白家酒」を飲んで、酔って倒れた文殊普賢(寒山拾得)という形象が表されている。また、「寒山詩」や「拾得詩」の中にも酒について詠んだ詩がいくつかある。こういった寒山拾得と酒を関連付ける要素はいくつかあるが、仙厓画のように、それが画として表される例は珍しい。仙厓の寒山拾得図寒山拾得の「不気味な笑顔」は、彼らの「風狂」を表すためのものだが、仙厓の寒山拾得図には、からりと笑う子供のような寒山拾得の姿が描かれる。そして、仙厓画の中にも、新たなパターンの寒山拾得図を見ることができる。「国清門前、千仞厓崿、寒公讒題詩、拾得次韻脚」と賛のある寒山拾得図〔図7〕は、鹿苑寺所蔵の伝牧谿「豊干寒山拾得図」にあるような、岩壁に詩を書きつける寒山という図様を元に発展させたもの。詩を題する寒山とその韻脚を次ぐ拾得という賛に表された形象を、股覗きをするように腰を曲げた拾得と、その上に乗って岩壁の高いところに詩を書きつける寒山というユーモラスな姿で描いている。「天台霞色、峨眉月影、若無酒盃、大殺風景所」という賛のある永青文庫所蔵の寒山拾得図〔図8〕には、経巻と箒を放り出して、瓢箪から酒を勢いよく注ぐ寒山と盃に受けた酒を美味しそうに飲む拾得が描かれる。仙厓の語録『瞌睡余稿』には、多くの寒山拾得に関する画賛が載るが、その中でも本作は「勧酒図」と称されるものに当たる。『瞌睡余稿』には、「勧酒図」の寒山拾得賛として、「月照峨眉、霞起天台、好箇時節、濁酒一盃」、「微風吹幽松、近聴声愈好、仙厓作此画、見寒拾則好」という2首が収められている。他に、寒山拾得の賛として、「擁篲不除塵、謂之大行、看経不解義、謂之大智、大智大行、有甚巴鼻、詩向会人吟、酒逢知己酔」という賛が載せられている。尾聯は『虚堂録』などにも見ることのできる表現で、仙厓画の中には、この部分のみを賛として用いている永青文庫本と同じ図様の作例もある。酒を飲む寒山拾得という形象自体は仙厓以前にも見られるものではある。南江宗沅ギッター・コレクションの寒山拾得図〔図9〕には、経巻を広げる寒山と箒に寄りかかる拾得という、寒山拾得図の定型となっている姿が描かれる。寒山図に付された賛には「泣露千般草、吟風一様松」とある。対する拾得図には「露に泣く千草の色も 秋深て 月に吟よふ 松風の音」と、「寒山詩」の一節を引いた寒山図の賛を和歌風に翻― 222 ―― 222 ―
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