鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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ヨットオの絵はどこを切っても、みな充実した、力こもったものだ。」(注3)と称賛している。また、アッシジ、サン・フランチェスコ聖堂では「聖フランチェスコ伝」を実見した。アッシジの「聖フランチェスコ伝」については19世紀以降作者をめぐる論争が絶えないが、草牧はジョット作とみなしている。麦僊がこの壁画をよくないと述べていたことにふれて、「明るい光りで見ると、よくない所か、ジヨツトオの作の中でもすぐれて立派なものであることを発見しました」と主張し、背景に金箔が用いられているのを発見したと述べて、その美しさは言葉に表しえないほどだと称賛した(注4)。さらに、フィレンツェ、サンタ・クローチェ聖堂では、バルディ礼拝堂のジョットによる壁画「聖フランチェスコ伝」(1317年以後)、タッデオ・ガッディ(Taddeo Gaddi 1300頃-66)「マリア伝」(1328~30年頃)、ジョバンニ・ダ・ミラノ(Giovanni da Milano 1346-69)「マリア伝」「マグダラのマリア伝」(1360~65年)を実見して、「マグダラのマリア伝」の《キリスト復活》を模写した(注5)。草牧はガッディ、ジョバンニをジョットの弟子とみなしている(注6)。ガッディ「マリア伝」と、草牧がジョバンニの制作とみなした「マグダラのマリア伝」には、いくつかの人物や建築モティーフに共通するものが見られると指摘される(注7)。これらのことから、草牧はジョットの絵画空間の奥行きを出す構図や色彩の力強さを称賛するとともに、ジョットの系譜とされ、華麗な色彩とグラデーションを発展させたガッディ、自然な感情表現を行ったジョバンニといった画家たちに惹かれたことが理解できる。一方で、フィレンツェ、サン・マルコ修道院美術館では、フラ・アンジェリコ(Fra Angelico 1387-1455)の作品群に対して、「アンジエリコの絵に欠けた力と云ふことは、そこまゝ、私の芸術に就ても考はねばならない点ではあるまいか。」(注8)と記しており、アンジェリコの優美さは迫力が足りないと感じたようである。ついで、草牧は、ナポリ、ポンペイでは、古代の壁画を熱心に見たことが見出せた。ナポリ、国立考古学博物館では、ポンペイから発掘された壁画群を実見し、「私の頭ははじめ巴里へ着いたときほどの強い驚異を感じた。頭に革命が起った。この革命よ根深いものであれ。」(注9)と記しており、草牧の感動が伝わってくる。その観点として、「ポンペイの世紀末的な生活を思はせるやうな快楽的な題材」、「その筆致の確実な、その明暗や、色彩の美しさ」を挙げ、「ルノアルがここから学び、梅原龍三郎氏が讃嘆したのは尤もです。」と記している(注10)。さらに、ポンペイでは、ヴェッティの家の、「黒地や赤地の背景に小鳥や花、蔓草を描いた壁画や、子供たちのごっこ遊びの様子を描いたフレスコが美しかった」と記していることから、色彩豊かで装― 231 ―― 231 ―

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