鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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2-1.ミュンヘン出品モデルミュンヘン展と分離派展について、まずは展覧会風景写真などの視覚的な資料の有無について、中央美術史研究所(ミュンヘン)の写真資料室、ミュンヘン市立美術館、バイエルン州立図書館に確認したが、該当するものは存在しなかった。そのため、「ランプ」などの即物的なタイトルの場合はそれ以上の確認が困難であると考え、今回は文学作品の引用によるタイトルを付された作品を中心にモデルの同定を行なった。ガレは、1884年ごろから文学作品の一節をガラスの表面に刻んだ、いわゆる「もの言うガラス」を数多く制作し、象徴主義的な作風で知られるようになったが(注2)、ミュンヘン展や分離派展は、まさにこうした作品を盛んに世に送り出していた時期にあたり、文学的なタイトルは作品に刻印された銘文であると考えてよい。したがって、この銘文を既存の作品情報と照合することでモデルが同定できるが、ガレの場合、全作品(モデル)を網羅したカタログ・レゾネは存在しないため、銘文を照合するのに適した資料として、まずはフランソワ・ル・タコンによるガレのガラス作品集 Lʼœuvre de verre dʼEmile Gallé に収録された「銘文・献辞集」(注3)を参照した。加えて、この資料には掲載されていない作品の存在も考慮し、国内外の主要なガレ所蔵美術館の作品情報や過去の展覧会図録も広範囲にわたって確認した。以上の照合作業の結果、〔表1〕のとおり、ミュンヘン展と分離派展への出品作品(注4)のうち、3点については同じ銘文を持つモデルの存在が確認された。1点は1892年の国民美術協会展出品作品とも銘文が一致するが、現在の所在が明らかではない。残る2点のうち1点〔図1〕には、ヴェルレーヌの詩集『昔と近頃』に収録された「ベレニケ王女」からの一節「Elle a fermé ses yeux divins de clématite(彼女はその神々しいクレマティスの瞳を閉じた)」〔図2、3:ただし、図にあるとおり、ナンシー派美術館に現存する作品の表面に刻まれている銘文では、「fermé」のかわりに「clos」が用いられている。〕が、もう1点〔図4〕にはユゴーの『死とは何か』の一節「Car tous les hommes sont les fils dʼun même Père, Ils ont la même larme et sortent du même oeil(人はみな、一人の父(神)の子なのだから、涙も同じ目から出る同じもの)」〔図5、6〕が与えられており、ともに同モデルが現在ナンシー派美術館に所蔵されていることが判明した。2-2.ダルムシュタット出品モデル一方、第1回ダルムシュタット芸術家自由協会展(以降「ダルムシュタット展」とする)については、ミュンヘンとは反対に文字による公式目録は残されていなかった― 250 ―― 250 ―

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