鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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(2)大楽寺本模本についてを伝える。大楽寺本は縦202.0cm。横186.5cmの、ほぼ正方形の構図をもった絹本着色の仏涅槃図である〔図1〕。表具裏の墨書から、天明6年(1786)および明治10年(1877)に修理が施されていることが分かる。本紙の際まで会衆たちや沙羅双樹、動物たちが描かれていることから、修理に際し画面をいくらか裁断したものとみられる。画面中央に右手枕で宝台に臥す釈迦如来を描き、その周囲を仏弟子や菩薩、天部、龍王や俗人など多くの会衆が取り囲む。向かって右上方には、天上から駆けつける摩耶夫人らが描かれ、画面下方には、52種の動物たちが集う。沙羅双樹の木は、青々とした葉を茂らせ、赤い花を咲かせたものと、枯れたものとが交互に配される。画面中央やや左上、沙羅双樹の木の隙間からは、夜空に浮かぶ月がのぞき、また、所々で水しぶきを上げながら、大きくうねる跋堤河が描かれる。いわゆる、第二形式の仏涅槃図であり、白象と獅子が画面中央下部に座型で相対し、釈迦・文殊(獅子)・普賢(白象)の三尊形式をとり、赤澤英二氏の構図型では八相涅槃図系新様に位置付けられるものである(注4)。釈迦の肉身に施された金泥や、会衆の頭髪、動物の体躯、空の彩色など、一部に補筆、補彩が見られるものの、制作当初の図様に影響を及ぼすものではなく、当時の姿が比較的よく残されている。その制作年代は、図様の特徴から南北朝時代14世紀後期頃と見られ、作者としては、古賀道夫氏により詫磨派との関わりが指摘されている(注5)。なお、本図は『大楽寺文書』の記述から、大楽寺の伽藍整備に合わせてもたらされたものであることが明らかとなっている(注6)。以上、大楽寺本の概略をまとめてきた。大楽寺本は、大分県宇佐市、中津市(注7)を含む豊前地域の仏涅槃図の中でも中世に遡る作例であり、かつ中央の絵師による作例であること、もたらされた時期が明確であることなど、豊前地方と中央との結びつきを知る上でも重要な仏画であるといえる。続いて、江戸時代に制作された9幅の大楽寺本模本(以下、模本)について述べる。海北友倩筆萬弘寺本 紙本着色 縦148.0cm 横120.0cm 元禄13年(1700) 国東市地蔵院本 絹本着色 縦183.2cm 横142.7cm 宝永6年(1709) 宇佐市洞昌寺本 紙本着色 縦200.7cm 横182.4cm 江戸時代前期 宇佐市― 19 ―― 19 ―

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