鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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⑹ルーヴル美術館の素描の裏面には、同素描が噴水に付す物語場面の構想であることを明記したデ・ロッシの短信が記されており、これを根拠として同彫刻家に帰属された(Detlef Heikamp,“Appunti: Vincenzo deʼ Rossi disegnatore”, Paragone, vol. 15, no. 169, 1964, pp. 38-42)。クーパー・ヒューイット美術館の素描については、2014年にボストンで開催された展覧会にて初めて公開された際にも、その作者同定に関する見解は覆されていない(Michael Wayne Cole, ed.,Donatello, Michelangelo, Cellini: Sculptorsʼ Drawings from Renaissance Italy, exh. cat. [Boston,Isabella Stewart Gardner Museum], London, Holberton, 2014, cat. 39, pp. 222-224)。⑺デ・ロッシの「ヘラクレスの12功業の噴水」の計画に関する拙稿は、友岡真秀「ヴィンチェンツォ・デ・ロッシとポントルモ─フィレンツェ公爵コジモ1世のための「ヘラクレスの泉」初期構想─」『地中海学研究』第39号、2016年、20-39頁、および友岡真秀「ヴィンチェンツォ・デ・ロッシとバッチョ・バンディネッリ─「ヘラクレスの泉」のための現存素描2点の再検討─」『Aspects of Problems in Western Art History』第14号、2016年、59-68頁を参照。⑽1549年に公妃エレオノーラがピッティ宮殿を購入したことに伴い、付属する敷地(現ボーボリ庭園)の整備を担ったトリーボロはそこに噴水を計画し、エルバ島で直径7メートルの円形水盤を制作した。しかし翌1550年に彼が死去したため、この直後の時期に、同水盤を用いた噴水を造営しうる後継者が公爵夫妻によって要されていた。⒁この作品は、クライスト・チャーチ絵画館所蔵の素描に記録されているものである。Chales Deloro si fa mentione, e le cose principali appartenenti a dette arti sʼinsegnano, Firenze, 1584, pp. 595-598)。これらの情報を総合すると、デ・ロッシは1563年までに4体に着手し、そのうち《ヘラクレスとカクス》と《ヘラクレスとケンタウロス》の2体を1568年までに完成させた。さらに現存する7体のうち、先の完成作2体を除く5体を1584年までに仕上げ、現存しない別の5体がこの時点で粗彫りの状態にあったことが推定される。⑻Manson & Woods Christie, Important Old Master Drawings From a Continental Collection: Which WillBe Sold at Christieʼs Great Rooms on Thursday 9 December 1982, London, 1982, cat. 23, p. 18.⑼Detlef Heikamp, “Sulla scultura fiorentina fra Maniera e Controriforma”, in Magnificenza alla corte deiMedici: Arte a Firenze alla fine nel Cinquecento, ed. by Maria Sframeli, exh. cat. [Firenze, Museo degliargenti], Milano, 1997, pp. 346-369, esp. p. 356, fig. 17.⑾Detlef Heikamp, op. cit., 1997, p. 356. この噴水計画はバンディネッリに引き継がれ、1550年代を通じて構想と造営に着手していたことが複数の書簡から確認される。しかしバンディネッリの生前にも計画は完遂せず、最終的には1574年にジャンボローニャが《オケアヌスの噴水》として仕上げた。⑿Manson & Woods Christie, op. cit.⒀本素描の作者同定については、20世紀初頭にフレイやトーデによってミケランジェロの真筆素描とされていたものの、ポップが贋作であることを主張すると議論を呼び、これをアントニオ・ミーニに帰属したパノフスキーは、ミケランジェロのオリジナル素描からの模写とする見解を提示した。しかし様式分析を通じてヴィルデがこれを否定して以来、ミケランジェロの真筆素描として改めて認められている。本素描が描かれた目的は不明だが、親しい友人への贈呈素描とみられており、ベレンソン、ヴィルデ、ジョアニデス、グナンらによって1530年頃に編年されている。本素描については、Achim Gnann, ed., Michelangelo. The Drawings of a Genius, exh. cat.[Vienna, Albertina], Ostfildern, 2010, cat. 79, pp. 262-265を参照。Tolnay, Corpus dei disegni di Michelangelo, 4 vols., Novara, 1975-80, esp. vol. 2, ill. p. 104を参照。― 333 ―― 333 ―

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