今違之如何」と註記している。『別尊雑記』本の構成は、『別尊雑記』にも引用する寛助の『別行』第七諸天下「琰魔王供次第」に記される尊位図や、兼意、実運の引用箇所に図示された蝋燭供の壇図とほぼ一致する。ただし『別尊雑記』本の内院で「后」とされる2尊は、『別行』や『別尊雑記』に引用する兼意説、実運説の壇図で、焔魔天の左前を「后」、右前を「妃」として区別している。覚禅『覚禅鈔』巻一一八「焔魔天法」に掲載される焔魔天曼荼羅でも、焔魔天の左右前の尊にそれぞれ「后」、「妃」と書き入れられており、『別尊雑記』本の二人の「后」も、「后」「妃」と見られる。ところで『別尊雑記』本に先立つ焔魔天曼荼羅の図像としては、心覚『四家鈔図像』巻下に収められた図像がある(以下、『四家鈔図像』本)。『四家鈔図像』は、四家すなわち心覚の師である兼意、寛助、恵什、実運のうち、恵什の説のみが引用されており、心覚が『十巻鈔』をもとに『別尊雑記』を編纂する途中で収集した手控えの図像集であるという(注25)。醍醐寺蔵『四家鈔図像』本は簡略な筆つきで、『別尊雑記』本との比較には注意を要するが、構成や各尊の図像はほぼ一致する。ただ『十巻鈔』第十「天等下」の「焔魔天」には、11尊の焔魔天曼荼羅を収録せず、ただちに『別尊雑記』本が「恵什―心覚」と相伝された図像と見ることは躊躇される。3 『別尊雑記』本の図像ここで『別尊雑記』本の各尊について、眷属の像容を中心に確認する。主尊・焔魔天は菩薩形で正面を向き、左手に人頭幢を持ち、右手をしっかりと屈し、五指を延べて仰掌する。左脚を垂下して牛の背に乗る。上半身に条帛、下半身に裳、腰布を着けて、天衣を纏う。二重の頭光をつけ、その周囲には火炎をめぐらせる。后は菩薩形で、体躯を少し右に向け、左脚を上に氍毹座に坐す。両腕を屈し胸の高さで、左手は立てて第二指から第五指を少し曲げ、掌を見せる。右手は仰掌する。着衣は焔魔天と同じく、条帛、裳、腰布、天衣をつける。妃も菩薩形で体躯を少し左に向け、右脚を上にして氍毹座に坐す。左手は拳にし、腰に置き、右手には白払を執る。袖口を絞った下衣に鰭袖付の上着を重ねる。腹上辺りで帯を締め、着衣の上に条帛を着ける。下半身には裳を穿き、腰布を巻く。天衣を纏う。太山府君は内衣の上に鰭袖つきの長袂衣を着て、腰紐を腹前で結ぶ。下半身には裳を穿く。冠を頂き、牀座に坐す。左手には人頭幢、右手に筆をとり、小机に広げた巻子に書き付ける。背後には背凭れのようなものが見られ、右脇には筆立てを置く。五道大神は内衣の上に袂の広がる衣装を着し、腹前で腰紐を結ぶ。下半身は裳を着― 342 ―― 342 ―
元のページ ../index.html#352