②-1 荼吉尼と成就仙荼吉尼と成就仙は先に見た通りともに童子形で、荼吉尼は左手に袋を持ち、成就仙は右手に獣皮の袋を持つ。両尊の頭髪はともに髪を束ねず、切りっぱなしとする点に特徴がある。このような像容をまず現図系胎蔵界曼荼羅に探せば、焔魔天の下方に成就持明仙4尊がある。それらの成就持明仙は皆、獣皮袋を持ち、下半身につけた裳は膝上までの長さで膝より下を見せており、『別尊雑記』本の荼吉尼や成就仙に近い像容のものも含まれる。しかし『別尊雑記』本の髪を切りっぱなしで垂らす様子や両者の袋を描き分ける点、装身具は腕釧のみとする点は、現図胎蔵界曼荼羅の成就持明仙と異なる。ここで真寂による東寺観智院金剛蔵本『諸説不同記』の「成就仙衆」(注26)を見ると、現図在荼吉尼衆左、有四仙衆、如童子形、被髪、不著衣、有瓔釧等、一仙在内、右手竪掌向前四指少屈、左手持豹皮嚢、或図屈臂仰掌屈名中小頭中間夾嚢口、繋肘上従上出外、其嚢非皮、立右膝坐、脚著金環、或図无、面向左方、或図竪右脚、其左脚著地返屈足、一仙〈在/外〉、身赤肉色、赤髪、縵跨下著豹皮褌、右開肘持物〈可勘/赤〉、或図杖上半月、上星、左手向内持豹皮嚢、面右方、二図白肉色、山図坐荷葉、一仙〈在左/内〉、右手屈臂竪開肘向身当右耳下、倒持豹皮嚢、左手作拳於腰側、或図覆掌指太垂下、 膝竪坐、指頭向前、面向左方、或図无脚環、一仙在左外、右手竪開肘、掌少覆向前屈四指、左手向内当肩下持豹皮嚢、竪左膝少交而坐、脚著金環、或図左押右交、无環、面向右方、山図白色、右手皮嚢、右拳叉腰、坐荷葉とあり、現図では4尊とも皮袋を持つ様に表わすが、「或図」では「其嚢非皮」を持つ尊を描き分ける。また「或図无脚環」と足釧を着けない姿で表すという。一方、髪を切りっぱなしで垂らす頭髪や、腹帯を前で結ぶ着衣を他の図像に求めれば、京都国立博物館本『胎蔵界外金剛部図像』(旧松田家本)の羅刹女や、風天童子4尊と類似している(注27)。また頭髪については東寺蔵西院本胎蔵界曼荼羅の成就仙衆とも近く、荼吉尼と成就仙の表現からは台密系図像との親近関係がうかがえるのである。②-2 遮文荼と聖天遮文荼は猪頭人身で現図系胎蔵界曼荼羅では、外金剛部院の西方におかれ、南方の焔魔天とは隣接しない。現図系胎蔵界曼荼羅の図像でも猪頭で右手に器を取り、左手― 344 ―― 344 ―
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