鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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㉞ アントニオ・ダ・モンツァのローマ滞在再考─アルベルティーナの写本装飾画に見られるローマ的図像─― 363 ―― 363 ―研 究 者: 日本学術振興会 特別研究員PD(九州大学大学院人文科学研究院) 恵泉女学園大学 非常勤講師 関東学園大学  非常勤講師  永 井 裕 子フラ・アントニオ・ダ・モンツァ(1480-1505年頃に活動)は、フラ(修道僧)という呼び名が示すようにフランチェスコ会の修道僧で、宗教関係の写本に装飾画を描いたロンバルディア派の画家である。フラ・アントニオに帰属される作品の大半は、ミラノに来歴を持つものと、ローマに由来するものに大別することができる。これら写本の来歴と様式的特徴から、この画僧はミラノで活動した後、1490年代にローマにて写本装飾画制作を行い、その後再びミラノに戻ったと考えられていたが、近年の研究ではローマで制作されたとされる作品に懐疑的な意見も提示されている。本稿は、アルベルティーナ美術館の「ペンテコステ」とグロテスク装飾枠に描かれた特殊な図像を検討することで、この画家がローマのサンタ・マリア・イン・アラチェリ教会、そしてアレクサンデル6世に関係する図像に精通していたことを浮き彫りにし、ローマでの活動を明らかにすることを目指すものである。アントニオ・ダ・モンツァとその記録についてアントニオ・ダ・モンツァの作品として、写本装飾画関係以外の絵画作品は確認されていないことから、教会や修道院のための写本装飾を専門とした画僧であったと考えられる。フラ・アントニオは自らが所属するフランチェスコ会の修道院、そして依頼のあった聖職者たちのため、聖務の合間に写本装飾を描いていたのだろう(注1)。アントニオの代表作アルベルティーナの「ペンテコステ」〔図1、2〕、ヴァティカン図書館の「磔刑図」〔図7〕などにみられるように、この画家の作品は極めて細密に描かれた質の高いもので、15世紀イタリアの重要な写本画家のひとりとして認識されている。それにもかかわらず、この画僧の素性と活動について記録した確実な文書は現在までに見つかっていない。この画家に関する唯一確実な情報は「ペンテコステ」に記された銘文である〔図2〕。画面上部のルネッタには、「主の恩寵による、小さき兄弟団の修道士フラ・アントニオ・ダ・モンツァの作品 (F. ANTONII DEMODOETIA MINORISTE OPVS. G. DE.)」と記されており、この画家がフランチェスコ会士であり、ロンバルディア地方の町モンツァに出自を持つことがわかる。また、

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