ルではなく、大きさは縦73センチメートル、横51センチメートルの一枚の陶板である。支持体は精ファイアンス(注26)であり、鮮やかな発色が実現されている。人物はデックかコランか長年同定されていなかったが、2018年1月からフランスで開催されているデックの展覧会では、コランの肖像と推定されており、両者の肖像画や写真を踏まえると、筆者もその判断が適当と考える(注27)。本作左下には、「.R.COLLIN.」と署名があり、本作裏側には「DECK」と上下二か所に記されている(注28)。では作品の造形分析を、モティーフに即して行いたい。肖像は四分の三正面像で、その右手は、「ブルー・デック」と称されるデックの花瓶(注29)にかけられている。金地装飾と同様に高く評価された「ブルー・デック」の作品を配するあたりに、コランのデックへのリスペクトを感じる。左手はズボンのポケットに入れられており、コランの余裕ある様子が見える。肖像部分には、輪郭をあまり設けず、柔らかな色調で比較的写実的に絵付けしているのと対照的に、背景には量感のある金地にこげ茶色の文様をややレリーフ状に施し、規則的に配している。元来ルネサンス以降の伝統的な肖像画では、背景は主役の肖像を引き立てる機能を有し、その主従関係は基本的に明白だが、本作では金地の背景が主役を盛り立てつつも、同時にその装飾効果によって自らも強い存在感を放っている。加えて、左下のややせり出した家具とコランのやや引き気味の右上半身以外に奥行きを担うモティーフがない点も、背景の装飾効果とともに作品の平面性を高めている。これらの特徴を踏まえると、本作は、コランとデックが自己の芸術の探求のために、平面性や装飾効果の実験を行った、実りある協働の場でもあったように感じるのである。実際先行研究では、コランの装飾画《音楽》〔図16〕及び《舞踏》〔図17〕の背景部分の制作に、2人の共同制作である金地の絵付け皿が影響した可能性が指摘されている(注30)。この二作は、金地の点以外にも、その装飾性や背景の平面性が特徴的であり、コランが共同制作等の機会を通じて装飾効果に触れることにより、何らかの影響を受けた可能性は否定できないと考える。5.おわりにデックはその生涯を通じて、様々な時代、地域の作品に触れ、多様な色彩を再現するのみならず、オリジナルの釉薬や技法を考案し、陶芸において新たな色彩表現を実現した。同時にそれらを、多くの芸術家との共同制作にも活かした。決して「絵画のような陶磁器」を目指したのではなく、絵画と異なり、火を媒介とする芸術だからこそたどり着ける、それまでにない表現を果敢に追い求めたのである。そしてその成果を、産業/装飾芸術振興運動の高まりの中で、自己の原点であるストーブに始まり、浴室、建築物、― 381 ―― 381 ―
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