鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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Ⅱ.「美術に関する国際交流援助」研究報告1.2017年度助成⑴外国人研究者招致①日本所在の劉■訶関連作品の調査・研究期   間:2017年8月19日~22日(4日間)招致研究者:中華人民共和国、蘭州大学 歴史文化学院 副教授報 告 者:公益財団法人白鶴美術館 学芸員  田 林   啓2017年8月19日(土)より同年8月22日(火)まで張善慶氏(蘭州大学歴史文化学院副教授)を招聘した。氏は、中国の中世仏教史及び仏教美術史を専門とし、とりわけ、奇瑞譚や瑞像に関わる作品についての研究において近年最も注目される若手研究者の一人である。張氏の今回の来日目的は次の三つである。即ち、①兵庫県多可郡に位置する極楽寺が所蔵する「六道絵」(重要文化財)を実見すること、②研究会「神異僧が導く美術品伝播の様相に関する基礎的研究」にて研究発表をすること、③神戸・白鶴美術館所蔵の『画図讃文』巻第27(重要文化財)を調査すると共に、美術館主導の研究に助言をすることである。これらは、番号順に19日、20日、21日の各日に実施された。張氏の研究テーマの一つに「劉薩訶(法名:慧達)」という僧がある。劉薩訶は、中国の仏教界では伝説的な僧として極めて著名である。薩訶に関する記録は、南斉『冥祥記』、梁『高僧伝』、唐『集神州三宝感通録』、同『法苑珠林』など各時代の書物に見られる。薩訶に関する説話として、殺生をして30代で亡くなり、地獄巡りをし、蘇生した後に出家し、江南の阿育王塔等の各聖跡を巡礼するという江南における話、そして、涼州(現甘粛省武威)の岩壁にて仏像の出現を預言し、果たしてその通りに出現した像(涼州瑞像)は頭部の有無によって当時の統治王朝の吉凶を暗示した、という二つのものがよく知られる。前者に関わる作品は阿育王塔であり、これは後世のものが日本にも伝わっている。後者に関わる作品には涼州瑞像という特徴ある仏像があり、中国の華北地域において50例余りの作例が確認されている。とりわけ、前者の― 411 ―張   善 慶(Zhang Shanging)

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