ることが指摘された。全体として、ザクセンシュピーゲル写本が、「インターヴィジュアリティ」(この用語を教授はしばしば用いられた)を介して、意味を機能させていることが明瞭に浮かび上がるという、美術史家ならではの内容を備えつつ、学際領域に大きな刺激となる講演であったと言えるだろう。講演後の質疑も30分にわたって行われ、佐藤彰一学士院会員をはじめ、奈良沢由美城西大学教授、渡辺晋輔国立西洋美術館主任研究官、駒田亜紀子実践女子大学教授等からの専門的な質問や意見が出され、活発な議論が交わされた。議論はなお尽きず、引き続き行われた2時間にわたる懇親会においても、キャヴィネス教授は参会者と活発に談論を交わされていた。少数ではあるが、東京大学、青山学院大学などからの学部生、大学院生も参加しており、こうした学生との接触も教授は大変歓迎され、また学生にとっても、国際的に著名な研究者との交流は大きな経験となったものと思われる。なお、キャヴィネス教授は講演の前後に、少数ながら研究者や学生とともに幾つかの美術館を見学された。とりわけ21日午前中には東京国立博物館で開催中の『運慶展』を見学、ご自分の研究対象とほぼ同時期に制作された諸々の仏教彫刻に強い興味を示され、とりわけ西洋中世の聖遺物容器と同様に、像内に様々な納入品が納められた作例に強い関心を示された。また22日には根津美術館で開催されていた『ほとけを支える―蓮華・霊獣・天部・邪気』展を学生とともに見学、こちらも偶然ながら教授の研究対象とほぼ同時期の仏教絵画展であり、殊の外熱心に鑑賞され、時に比較美術史的視点からの質疑が交わされた。また、こうした交流の中で、教授がハーヴァード大学に提出されたカンタベリー大聖堂ステンドグラス研究の主要な部分が、立川在住中(1968、69年)に執筆されたことがわかり、その折のエピソード等についてのエッセイの執筆を慫慂した次第である。なお、キャヴィネス教授は今後も日本の美術史研究者との密な交流を望まれ、既に11月上旬にはタフツ大学の日本美術史担当の上西(Kaminishi)准教授が、キャヴィネス教授の仲介により東京大学の美術史学研究室を訪問され、今後の研究教育における協力についての相談等を行なった。3.事業評価総会開催の主要な目的である事業(プロジェクト)評価が、23日と24日の両日にわたって実施された。このなかで美術史に関係する事業は23日開催の6年次評価において2件、2年次評価対象として2件が挙げられる。この他に関連する事柄として23日に6年次評価に先立って新事業のプレゼンテーションが実施された。採否の決定は最― 423 ―
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