鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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②今日の世界の工芸動向Update Craft 刷新する工芸価は、進展ぶりは着実であり、出版のための財政的基盤もしっかりしている。米国の後援が無条件で維持されるべきであるとしている。第73事業「ルートヴィヒ・ブルハルトによるルーベンス作品総覧」は、ドイツ生まれの美術史家ルートヴィヒ・ブルハルト(1886-1960)が1939年にその構想を発表したピーテル・パウル・ルーベンスの全作品の図像と解説その他の情報を網羅した作品総覧を作成する事業である。第二次大戦の勃発により中断した個人的企画を、ベルギーのアカデミーが継承し、ハンス・フリーエが統括役を務めている。過去3年に年1巻のペースで3巻が出版され、さらに2巻分の原稿がストックされている。主査A・イヴァンチク教授の評価は、単独のアカデミーによる企画としては、事業の進行速度は顕著に早い。これまで全部で5巻が出版されている。だが、今後の展開を考えると国際委員会を組織して、多国間事業に拡大する必要があるとしている。≪25日≫美術史関連の新規の事業として「前近代ギリシア正教壁画総覧Corpora of Pre-Modern Christian Orthodox Mural Painting」が、ブルガリア科学アカデミー、セルビア科学アカデミー、ルーマニア科学アカデミーの3アカデミーによる共同事業として提案された。23日にブルガリア科学アカデミーの代表であるE・ムタフォフ博士によるプレゼンテーションの後を承けて、この25日に採択の可否をめぐる投票が行われた。23日のプレゼンテーションの際には、第40A事業との重複の指摘がなされたが、「前近代ギリシア正教」の包摂する空間が、必ずしも「ビザンティン」の空間的枠組みに収まらないという理由から、新事業として立案した経緯が説明された。挙手賛成多数でUAI事業として採択された。唯一反対の意思を表明したのはフランスの碑文・美文アカデミーの代表であった。以上が第89回国際学士院連合東京総会における事業評価と、新規事業の採択をめぐる議論の概要である。なお、同事業評価には、各国代表の他、日本の若手研究者数名が参加した。期   間:2017年11月21日(1日間)会   場: 東京、東京藝術大学 社会連携センター アーツアンドサイエンスラボシアターホール報 告 者:東京藝術大学 美術学部 准教授  三 上   亮― 425 ―

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