国際会議「刷新する工芸」は2017年11月21日に東京藝術大学美術学部主催で東京藝術大学アーツアンドサイエンスラボ4Fの球体ホールで開催された。本会議の目的は、近年世界で顕著な工芸に対する関心の高まりが背景にある。スイス・バーゼルでアートフェアなどを運営されているナディーヌ・フィッシャー・クライン氏、世界各地で幅広く工芸のディレクションに関わるアートディレクターの韓国のチョ・ヘヨン氏、クリエイターの未来に対しアカデミズムの立場で発言を続けるイギリスのプリマス大学教授のマルコム・フェリス氏、アメリカの国際民藝美術館のチーフキュレーターで日本の工芸に詳しいクリスティーン・ノーク氏を招聘。東京藝術大学美術館館長である秋元雄史氏の司会、進行により東京藝術大学美術学部工芸科の教員、在校生の多数参加により、第1部は招聘者による各国の工芸の状況の報告、第2部は、本学の学生により実際の作品を前にしての制作意図のプレゼンデーション、その後質疑応答がおこなわれ活発な意見交換が行われた。第1部招聘者の方々の発表最初のナディーヌ・フィッシャー・クライン氏はご自身のスイス・バーゼルの『TRESOR』すなわちコンテンポラリークラフトを扱うアートフェアの詳細な報告をされた。果たしてこれが工芸の範疇なのか、我々としては、アート作品として受け止めてしまうようなタイプの作品の映像も紹介されるが、コンテンポラリークラフトの芸術性の高さを示すものであるとのことだ。『TRESOR』の構成要素は、財団やギャラリーそしてキューレーションパートからなりそれぞれが特徴を出している。今、ヨーロッパでなぜクラフト、工芸に特化したフェアに関心があるのかコレクターの収集の実態を踏まえての現実的な指摘がされた。それによると収納スペースに限りがあるので大きな絵画よりは手頃なサイズ感と購入しやすい価格帯であることという現実的な事情が見えてきた。現代アートのフェアとは明らかに違うテリトリーを主張していこうというものであることがうかがわれる。チョ・ヘヨン氏はイギリスで陶芸を研究された経験を踏まえて『マテリアル、テクニック、美学、そしてその境界』というテーマで講演された。まず、境界について、韓国において「クラフト」と「工芸」という言葉の問題についてかなり時間を費やして議論をした結果、「工芸」に落ち着いたということだ。この「工芸」という語はコンセプチュアルではなく実用という意味を持っているという点に理由があるそうだ。我が国においての工芸の語の持つ範囲はそこに留まってはいないような現実がある― 426 ―
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