TRESORのエンカウンタープログラムで討論をした経緯をふまえて、デザイン、アート、クラフトは区分けしなくても良いという立場を表明された。マルコム氏も同じ意見ではあるが、作るもののスケールが境界を決めており、そこを行き来するアイデアを発言、ハイブリットクラフトの概念につながる可能性を示唆された。チョ氏は自身の学生時代からの経験から思考をトレーニングする必要性、学際的な時代に生きているゆえ自分の考え方も違う領域に開かれていくことの重要性を発言された。学生からの切実な質問もあった。アーティストに比べて語ることに消極的な印象を持つ工芸家が語ることにっいて積極的であるべきかとの質問があった。マルコム氏がイエスでありノーであるという、答えを持ち合わせていないという立場で話された。それによると日本の工芸はイギリスなど西側の歴史的価値基準で産業革命の時代に発明されたクラフトとは違う、同じ道を歩まなくても良いのではないか、という示唆に富んだ内容であった。それを受け秋元氏は、ドローイングなどの制作に至るプロセスを見せること、もっと社会に働きかけるコンセプトのある作品の過程を見せていくことの重要性を投げかけた。マルコム氏はこのような場所で学生が自分の作品について語ることは重要なプロセスであり自己の作品に客観性を保つためにも良い機会だとした。以上、簡単に会議の経過を多少の私見も含めて報告した。詳細な会議内容については記録集に詳しい。なぜ今、工芸に注目が集まっているのか、世界のマーケットの中で工芸はどのように扱われているのか、また工芸という枠組みはインターナショナルな概念たりうるのか、アートと工芸、クラフトと工芸、伝統と現代のグローバリゼーションの問題など、国内では曖昧にして論じることのないことにも踏み込め、理解を深めることができたように思う。また工芸の範囲、学際に対する想像力、造形力により、東京藝術大学工芸科の潜在能力を最大限に反映するためにも大変参考になるであろうアイデアも意見も多数聞くことができた。今回実現できたこの刷新する工芸Update craft国際会議は我が国のそして世界の工芸の可能性を飛躍させるための大きな足がかりとなるであろう貴重な1日となった。― 429 ―
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