鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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て考察の対象としなければならないが)について、その膨大な創作の軌跡を概観したとき、そこに自ずと浮かび上がってくるのは過去の美術作品の投影、ないしは反響である。初期から晩年にいたるまで、先史時代や古代、中世やルネサンス、さらにはバロックや近現代といった時代の流れを問わず、またヨーロッパやアフリカ、オセアニア、さらにはアジアや極東日本といった地域の違いを問わず、古今東西にまたがっての実に膨大なイメージの記憶が彼の作品には蓄積されている。「ピカソと人類の美術」というテーマで、本シンポジウムが問題として取りあげたのは、単なる影響関係─似る・似てない関係─を超えた、ピカソと過去の作品との対話と対峙、その関係性であった。各パネラーは、異なる地域や時代を取りあげながらも、共通する問題系、「ピカソの創作と過去の作品との関係性」に言及しつつ、ピカソの各時代や個々の作品において、様々な関係性の性格を示すよう試みた。本シンポジウムは、換言すれば、古今東西の「人類の美術」を参照、引用、借用、吸収しながら、旺盛な創作活動を行ったピカソの創造の秘密を、一方で、広く既存の視覚イメージを借用するピカソの制作態度に内在する論理とは何であったかを問い、他方で、具体的に、ピカソが特定の流派、作家や作品とどのように関わったかを問うことで、明らかにする事を目標とした。マドリーヌ女史の他に、イタリアから招聘中であったペルージャ大学名誉教授のカテリナ・ザッピア(Caterina Zappia)女史にご参加頂き、来賓として、高階秀爾先生(大原美術館館長/東京大学名誉教授)をお迎えした。高階先生は、本シンポジウムのテーマをいち早く、取りあげて『ピカソ 剽窃の論理』(1964年、筑摩書房)で論じられているが、発表から半世紀以上たち、その後、多くの重要な研究が発表されており、その意味でも、本シンポジウムは時宜にかなった企画であったと確信する。先生の序論となるお話を皮切りに、大髙保二郎先生が基調報告を行われた後、マドリーヌ女史、ザッピア女史、国内のピカソ研究者やピカソと関係する画家を研究する専門家5名が本テーマを巡ってそれぞれ口頭発表を行った。プログラムは以下の通りであった;日時:2017年11月11日(土)10:00am~18:00pm会場:京都工芸繊維大学松ヶ崎キャンパス西構内1号館1階0111教室使用言語:フランス語と日本語主催:日仏美術学会/京都工芸繊維大学大学院造形史研究室助成:公益財団法人鹿島美術財団/公益財団法人ポーラ美術振興財団― 431 ―

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