鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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【質疑応答】彼は自分自身の人気がロートレックのポスターのおかげだと見抜き、ステージにポスターを並べて歌うこともやり始めました。歌手たちはロートレック作品によって自分のイメージ、ブランドの再補強ができたわけです。このように、エリートのための限定版の「版画」と大衆的な「ポスター」が二項対立的にあったかと思えば、実は両者の間の違いはだんだんと薄らいできました。芸術性の高いポスターの人気が高まるとそれらをコレクションする人々が登場し、ついにはコレクター向けの限定版のポスターが作られるようになったのです。この講演では、具体的な作品を通じてエリートとストリート、つまり知的階級と一般庶民の世界をロートレック作品がいかに行き来していたのか、皆さまにお伝えできたことを願っております。講演終了後、聴講者より複数の質問が投げかけられ、それらに対しカルヴァルジョ氏が回答しました。質問者1:同時代のシェレやボナールも含め、彼らは黄色をよく選択している。ロートレックは意識的に他者と異なった色合いの黄色を用いたのか。カルヴァジョ:黄色は人の注意を喚起する色で、ゴッホ美術館のロゴにも黄色を選んでおります。当時のパリは既にせわしない街であり数秒で人の注意を引き付ける必要があった。芸術性もさることながら、広告として機能を考えたのでしょう。ロートレックの黄色には詳しくないのですが、彼はボナールの「フランス・シャンパンのためのポスター」を研究しており、関係が引けるのではないか。ちなみにロートレックのシグニチャーカラーはオリーブグリーンとされています。質問者2:ロートレックと踊り子の関係について。カルヴァジョ:踊り子の個性を描き出そうと工夫する一方、ロートレックにはいじわるなところもあり、わざと不細工に描く傾向が大いにありました。カリカチュアという言い方になります。大変ご立腹になったのがイヴェット・ギルベールでした。宣伝として極めて効果的と知ってのちに許したそうです。質問者3:ロートレックは浮世絵にどういう影響を受けたのか。カルヴァジョ:ロートレックにとどまらず、あの世代の作家は皆、浮世絵から構図、色合いの使い方などの影響を受けています。ロートレックは北斎漫画や戯画から思い切りのよい輪郭線やおかしみを対象から読み取る手法を学んだのではないでしょう― 439 ―

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