鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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ンスにおける中世関連の学会動向、そしてコンピュータ技術を駆使した最新の古文書学の成果等、現代における中世学の現状報告のみならず、その発展的な有り方を問う様々な研究手段が提示された。若手研究セミナーと銘打ってはいたものの、実際の参加者は熟練した研究者ばかりであったため、質疑応答は全て英語、仏語で活発に行われた。今後の共同研究等につながる有益な学術交流を図るため、夜には興福寺の伽藍を望む素晴らしい立地にある宴会場「KOTOWA」で関係者32名が奈良の食材をふんだんに使用したフランス料理を堪能しながら歓談した。これは当該事業で達成することを目標にしていた課題のーつ「地域との連携」、つまり大多数の参加者が初めて訪れる奈良をより良く知ることを目的としたものであり、同様の意図は会期中の昼食を準備してくださったレストラン「祥楽」にも酌んで頂けた。しかし、それ以上に望まれたのは、ほとんどが初対面の多様な分野・国籍の研究者達が親交を深める機会を可能な限り多く設定することであった。これは報告者が海外のシンポジウムや研究会に招かれた際、リラックスした時間の歓談が、シンポジウム会場での各発表に対する活発な質疑応答を促したり、情報交換や共同研究の提案といった今後につながる関係が築かれ易いことを実感していたためである。今回の場合も、参加者達は和やかな雰囲気の中で非常に充実した論議を交わしそれぞれが何らかの収穫を得たようである。様々な事情でシンポジウムでの研究発表が叶わなかったイザベル・ドラエラン氏と最終日の発表者である山中由里子氏に、共著をアクトに寄稿して頂けることなったのは、その賜物の一つである。国際シンポジウムは翌18、19日の両日に実施した。まず古川攝一学芸員によって美術史家の矢代幸雄が主導した大和文華館コレクションの形成経緯と、メネストレルの活動を20年間支えてきたクリスティーヌ・デュクルシュー氏による当会とシンポジウム主題「文化交流」との関連性などが提示された後、《文化交流としての宗教活動》《異文化へのまなざし》、《文学に見る文化交流のかたち》の3セッションが行われた。東洋美術史、中世ヨーロッパ史、日本史、フランス文学、イギリス文学など多分野の専門家による発表は、シンポジウム主題に対する多様な知見、視座、アプローチを披露することなり、聴衆の誰もが大いに刺激を受けていた。特に塚本氏の報告の中で言及されていた仏教文化圏における聖遺物の機能と役割は、キリスト教文化圏のそれに通じるものであるにもかかわらず、そのことに対して全く無知であった西欧中世研究者は少なくなく、異分野・異文化間の共同事業が創出し得る成果の大きさを窺わせた。終了後は、聴衆を交えた懇親会を奈良国立博物館内のレストラン「葉風泰夢」で実― 441 ―

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