⑤近衛信尹の書と料紙装飾─陽明文庫蔵「源氏物語和歌色紙貼交屛風」を中心に─(1)作品の概要及び表現上の特徴研 究 者:大阪大学大学院 文学研究科 博士後期課程 浜 野 真由美はじめに我が国の近世初期における書画は、本阿弥光悦(1558~1637)と俵屋宗達(生没年未詳)のコラボレーションによる書画作品が関心を集めているが、その一方で近衛信尹(1565~1614)が揮毫した作品にも書と画の見事な合作が存在する。そうした作品には、信尹の出自や能書としての名声を反映し、当代を代表する絵師が関与したことが推測される。しかし、書の料紙に施された金銀泥下絵などの加飾については、いつ、誰が、どのように関わったのか、ほとんど解明に至っていない。本報告では、近世初期の書画制作の一端を明らかにするべく、特に信尹の書と料紙装飾に着目し、「源氏物語和歌色紙貼交屛風」六曲一双(京都・陽明文庫蔵、以下陽明本)を中心に分析する。その上で、信尹の料紙装飾の筆者についてあらためて考察を加えたい。1.近衛信尹筆「源氏物語和歌色紙貼交屛風」について陽明本は、近衛信尹が揮毫した色紙形を紙本金地著色の六曲一双屛風に貼り交ぜた作品である〔図1〕。近世初期の華麗な色紙貼交屛風としてしばしば展覧会に出陳される機会はあり、作品解説は存在するが、管見の限りこれまでにモノグラフといえる研究はない。はじめに本屛風の概要を述べる。各隻の法量は、縦155.4cm、横370.0cm(注1)。屛風絵は右隻と左隻で異なる情景を展開する。右隻では、画面を横断する二層の土坡の稜線上に数種の菊が豊かに咲きこぼれている。対する左隻では、飛沫をあげる波濤の上を画面左から群雲が覆い、画面右からは上下に金砂子の霧霞が立ち込めている。そして、そうした彩画に呼応するように、右隻に31枚、左隻に30枚の色紙形が六扇全面に貼り交ぜられている。色紙形は色替りの料紙に金銀泥で四季の草花を描いたものである。料紙の色合いは白・朱・橙・黄土・鼠・水色・緑・青・紺・紫と多彩だが、慶長10年(1605)頃のものと見られる光悦書・伝宗達画「色紙貼交桜山吹図屛風」(東京国立博物館蔵)の色紙形などに比べ(注2)、濃紺・濃紫といった深みのある色が目立つ。また、金銀泥下絵には南国をイメージさせる芭蕉や棕櫚も見え、伝統的な技法が駆使されながら― 40 ―― 40 ―
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