鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
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薄雲絵合松風関屋蓬生澪標明石須磨花散里 夕顔若紫空蝉帚木桐壺隻色紙番号右隻左隻1いときなき  はつもとゆひに  なかき世を  ちきるこゝろは  むすひこめつや2むすひつる  心もふかき  もとゆひに  こきむらさきの  色しあせすは3ことのねも  月もえならぬ  やとなから  つれなきひとを  ひきやとめける4木からしに  ふきあはすめる  笛のねを  ひきとゝむへき  ことのはそなき 5さきましる  色はいつれと  わかねとも  なほとこなつに  しく物そなき 6あふことの  夜をしへたてぬ  なかならは  ひるまもなにか  まはゆからまし7つれなきを  うらみもはてぬ  しのゝめに  とりあへぬまて  おとろかすらむ8身のうさを  なけくにあかて  あくる夜は  とりかさねてそ  音もなかれける9はゝき木の  心もしらて  そのはらの  みちにあやなく  まとひぬるかな 10かすならぬ  ふせやにをふる  なのうさに  あるにもあらす  きゆるはゝきゝ11うつせみの  みをかへてける  木かくれに しのひゝゝゝに  ぬるゝ袖かな12こころあてに それかとそみる 白露の ひかりそへたる ゆうかほのはな13よりてこそ それかとそみめ たそかれに ほのゝゝみつる はなのゆふかほ14いにしえの かくやは人の まとひけん わかまたしらぬ しのゝめの道15やまのはの こころもしらて 行月は うはのそらにて かけやたえなむ16あさか山  あさくもひとを  おもはぬに  なと山の井の  かけはなるらむ17くみそめて  くやしときゝし  やまの井の  あさきなからや  かけをみゆへき18みても又  あふ夜まれなる  夢のうちに  やかてまきるゝ  吾身ともかな19世かたりに  人やつたへん  たくひなく  うき身をおほめぬ  夢になしても20てにつみて  いつしかもみぬ  むらさきの  ねにかよひける  野辺のわか草21よる波の  こころもしらて  わかの浦に  たまもひろはん  ほとそうきたる22もろともに  おほ内やまは  いてつれと  いるかたみせぬ  いさよひの月23はれぬ夜の  月待さとを  おもひやれ  おなしこゝろに  なかめせすとも24物おもふに たちまふへくも  あらぬ身の  袖うちふりし  こゝろしりきや25から人の  袖ふることは  とをけれと  たちゐにつけて  あはれとは見き26つつむめる  名やもりいてん  引かはし  かくほころふる  中のころもは27おほかたに  はなのすかたを  みましかは  露もこゝろの  おかれましやは28ふかき夜の  あはれをしるも  いる月の  おほろけならぬ  契とそおもふ29かけをたに  みたらし川の  つれなきに  身のうきほとそ  いとゝしらるゝ30はかなしや  ひとのかさせる  あふひゆへ  神のゆるしの  けふをまちける31かさしける  心そあたに  おもほゆる  八十氏人に  なへてあふひを32こゝのへに  霧やへたつる  雲のうへの  月をはるかに  おもひやるかな33さゝかにの  ふるまひしるき  ゆふくれに  ひるますくせと  いふかあやなさ34やまかつの  かきほあるとも  おりゝゝに  あはれをかけよ  やまとなてしこ35かねてより  へたてぬ中と  ならはねと  わかれはおしき  ものにそありける36伊勢の海の  ふかき心を  たとらすて  ふりにしあとゝ  なみやけつへき37みをつくし  こふるしるしに  こゝまても  めくりあひける  えにはふかしな38身をかへて  ひとりかへれる 山さとに  きゝしにゝたる  松風そふく39乙女子か  あたりとおもへは  さかきはの  かをなつかしみ  とめてこそおれ40いくとくと  せきとめかたき  なみたをや  たえぬ清水と  人は見るらむ41かすならて  なにはのことも  かひなきに  なとみをつくし  おもひそめけむ42人つまは  あなわつらはし  あつまやの  まやのあまりも  なれしとそおもふ43雲のうへに  おもひのほれる  こゝろには  ちひろのそこも  はるかにそみる44秋の夜の  つきけの駒よ  わかこふる  雲ゐにかけれ  ときのまもみん45ひとりねは  きみもしりるや  つれゝゝと  おもひあかしの  うらさひしさを46なをさりに  たのめをくめる  ひとことを  つきせぬねにや  かけてしのはん47わかれても  かけたにとまる  ものならは  鏡をみても  なくさめてまし48月影は みし夜の秋に  かはらぬを  へたつるきりの  つらくもあるかな49月のそむ  川のをちなる  里なれは  かつらのかけは  のとけかるらむ  50久かたの  ひかりちかき  なのみして  あさゆふ霧も  はれぬやまさと51たちはなの  香をなつかしみ  ほとゝきす  はなちるさとを  たつねてそとふ52ゆきてみて  あすもさねこむ  中ゝに  をちかた人は  心をくとも53ことのねに  ひきとめらるゝ  つなてなは  たゆたふこゝろ  君しるらめや54わくらはに  行きあふみちを  たのしみも  猶かひなしや  塩ならぬうみ55旧里に  みし世のともを  こひわひて  さえつることを  誰かわくらむ56おち返り  えそしのはれぬ  郭公  ほのかたらひし  やとのかきねに 57たれにより  世をうみ山に  行めくり  たえぬなみたに  うきしつむ身そ58とも千鳥  諸声になく  あかつきは  ひとり寝さめの  とこもたのもし59心ありて  引てのつなの  たゆたはゝ  うちすきましや  須磨の浦なみ60神かきは  しるしの杉も なきものを  いかにまかへて  おれるさかきそ61船とむる  をちかた人の  なくはこそ  あすかえりこむ  せなとまちみめ表1 和歌の出典と配列  ※色紙番号は〔図2〕 に対応花宴葵賢木和歌の翻刻― 51 ―― 51 ―紅末葉摘花賀  

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