鹿島美術研究 年報第35号別冊(2018)
81/455

げた宗珉の造り込みの工夫についてであり、片切彫作品の造り込みについえは、あくまでその言を踏まえて推しはかったものである。⑸拙稿「『装剣奇賞』230年─刀装具と根付 細密工芸の世界」『目の眼427号』里文出版、2012年、および拙著『“超絶技巧” の源流 刀装具』淡交社、2017年⑹文様の輪郭を線刻し、その内側をなだらかな肉取りで鋤き下げてレリーフ上に見せる彫りのこと。江戸時代中期以降の奈良派が得意とした技法。⑺拙稿「装剣金工・大月光興をめぐる人々─絵師・岸駒との交流を中心に─」『畫下遊樂(二)奥平俊六先生退職記念論文集』藝華書院、2018年、P477-491 なお、光興による片切彫の面的使用の着想を岸駒画だけに帰結できるだけの共通性は認められない。光興が経眼したであろう数多くの絵画作品には没骨的な表現の作品も少なくなかったはずであり、特定の絵師の影響というよりはむしろ、光興の絵画学習の成果だと考えたい。⑻前掲注⑴ではこの3人について「(光興は)宗珉、長常より更に一層の進歩をなしたり。即ち長常は宗珉画題の旧套に堕したるを改めて、考古的、歴史的、風俗的の図大を取入れたるに対して、光興は長常より更に一歩を進めて、禅味的、暗示的、空想的のものありて、芸術的に観て一層高所に位するもの」と評している。抽象的な表現ではあるが、本稿も桑原氏の考えを首肯し継承するものである。⑼壽々木雪山「近世名匠伝 二 彫金家 加納夏雄」『建築工芸叢誌』第2期第2冊、1914年、P24-27、拙稿「“超絶技巧” の源を探して」『幕末明治の超絶技巧─世界を驚嘆させた金属工芸』大阪歴史博物館ほか、2010年⑽拙著『“超絶技巧” の源流 刀装具』淡交社、2017年⑾菊岡沾涼『本朝世事談綺』、稲葉通龍『装剣奇賞』、喜多村信節『筠庭雑録』、田中一賀『金工鐔寄』、朝岡興禎『古画備考』等。⑿筆者企画による特別展「鏨で描く─日本刀刀装具にみる絵画の世界」(大阪市立博物館、1997年)の準備過程で対応する作品を複数発見し、その一部は展示、図録で紹介した。⒀前掲注⑶参照⒁海野勝珉「横谷宗珉」『建築工芸叢誌』第19冊、1913年、P15-16⒂以下、狩野派絵師の筆法や評価の問題については、門脇むつみ『巨匠 狩野探幽の誕生』(朝日新聞出版、2014年)を主に参照、引用した。― 71 ―― 71 ―

元のページ  ../index.html#81

このブックを見る