画である。前述のとおり、木版画20点のうち、この4点を含む17点は、1904年から1907年にかけてパリのサロン・ドートンヌに出品された多色刷り木版と同名のものと思われる。換言すると、人民美術館には少なくとも同一主題の多色刷り木版が出品された可能性が高い。レーテルによる版画のレゾネと照らし合わせるかぎり、黒地の版に色版を重ねたタイプのものが11点、色版だけを重ねたタイプのものが5点含まれるが、1点は不詳である。そして、名称を参照するかぎり、サロンへの出品作品とは異なると思われる残りの3点は、《夏(Eté)》(HL10, R33)、《海辺(Sur la plage)》(HL5, R5)、《薄暮(Crépuscule)》(HL14, R37)といった色版だけのタイプのものである。『新傾向』誌の第30号(1907年6月?)に掲載された人民美術館の展評において、ジェローム=マエスはカンディンスキーの出品作について触れており、特に、「色とりどりの彩色ガラス」(注19)のような印象を与えるドローイングや説話的な木版画を高く評価した。とりわけ興味深いのは、次のような部分である。「(・・・・・・)木版画の方法に従って制作された偉大な水彩画。その登場人物たち、衣服と肉体は、暗闇の底にファンファーレのように鳴り響く」(注20)。こうした、暗闇に鳴り響く色彩というイメージは、カンディンスキーが1911年12月に1912年の発行としてミュンヘンのピーパー社から刊行した『芸術における精神的なもの(Über das Geistige in der Kunst)』に通底するものであると思われる。例えば、黄色はトランペットのように鋭く、「ファンファーレの音色のように、響く」(注21)のである。5.『木版画集』の刊行この展覧会から少し間をあけて、『新傾向』誌は、カンディンスキーのポートフォリオ『木版画集(XYLOGRAHIES)』〔図11〕を1909年に刊行した。このポートフォリオは、1907年制作とされる木版画5点を写真製版したものである。『新傾向』誌の第46号(1910年2月?)、第48号(1910年8月?)、第49号(1910年11月?)には、それぞれ《森の中の女たち(Les Femmes au Bois)》(HL32, R60)、《白樺(Les Bouleaux)》〔図12〕(HL26, R54)、《鳥(Les Oiseaux)》(HL37, R65)を配した3種類の広告が掲載された。『木版画集』のリーフレットの表紙には「新傾向出版、国際美術文学連合機関誌」と印字されており、ジェローム=マエスが序文を寄せている。ジェローム=マエスは、カンディンスキーの作品における夢のような神秘的性質を次のように要約する。「彼は、夢の中にいるように、主題の視覚的な要素を内的に引き出す。彼はそれに生命のリズムを吹き込む」(注22)。そして、「カンディンスキーのドローイングは― 132 ―― 132 ―
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