状ほかは持国天分に準じる。広目天分 長髪。顔は正面を向いて左頬を地面につけ、頭部を左方向に向けて腹這いになり、こめかみと臀部に本体の各足を受ける。左前肢は曲げて掌を地面に着ける。四肢先の形状ほかは持国天分に準じる。このかたちを継承する邪鬼は文永6年頃とされる東大寺戒壇院千手堂像と13世紀末頃とみられる浅草寺宝蔵門像などに認められる。いずれも髪型や首の捻り方、四肢の運びといった細部の表現まで酷似し、大仏殿様像において足元の邪鬼の図像に、ある一定の規範が共有されることがわかる。多聞天分の造形についてもここで触れておきたい。東大寺戒壇院千手堂像〔図2〕と浅草寺宝蔵門像〔図3〕の多聞天分をもとに形状を確認する。多聞天分 巻髪。顔は左斜め正面を向いて前方を見据え、頭部を右方向に向けて腹這いになり、頭頂と臀部に本体の各足を受ける。両前肢両後肢を前方に投げ出し、間から顔を覗かせる。四肢先の形状ほかは持国天分に準じる。後肢を前に投げだす多聞天分の特徴的な造形については、すでに岩田氏が一部の大仏殿様四天王像に共通することを述べられている（注5）。図像の祖形については後ほど詳しく検討するが、氏はこの造形を朝護孫子寺蔵『信貴山縁起』尼公巻〔図4〕に認め、奈良創建期の踏襲である可能性を示された。いずれにせよ大仏殿様四天王像多聞天分の邪鬼の形状は、東大寺戒壇院千手堂像と浅草寺宝蔵門像の造形を定型とみてよいと考える。四天王像本体で論じたように、大仏殿様像の図像の規範は時代が下るにつれて混乱や省略がみられるが、邪鬼も同じである。たとえば鎌倉時代前期とみられる岡田美術館像では広目天分〔図5〕と多聞天分〔図6〕の造形が逆転し、13世紀半ば前後とされる東大寺勧進所阿弥陀堂像では、持国天分と増長天分の頭部の方向は維持されたまま髪型や四肢の運びなどが逆転するのに加えて、広目天分〔図7〕も頬杖をつくような仕草に変わり、多聞天分も顔を横に向けることで、頭頂ではなく横顔を踏まれる。これらは再建期像の図像とは別の系譜の影響を想定するよりも、時代を経るにつれて本体の変化と連動しながら図像の規範が緩やかに変容していったとみるのが穏当だろう（注6）。（三）奈良創建期像と大仏殿様四天王像邪鬼現存する作例を通して、大仏殿様邪鬼の定型がある程度明らかとなったが、このかたちは奈良創建期のものと同じであるのか、それとも異なるのか。祖形を辿りながらこの問題について考えていきたい。― 152 ―― 152 ―
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