鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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⑩ ベルリン国立アジア美術館旧蔵、トゥルファン出土絹本著色画(グリュンヴェー1.作例の所在と分布1-1 作例一覧本研究では、次の11作例を対象とした。① 四川省資陽市安岳県、仏慧洞の摩崖石刻(南宋、13世紀後半)② 重慶市大足区、宝頂山摩崖造像、大仏湾第8号龕の摩崖石刻(南宋、12世紀末~13世紀初)世紀初)(11~12世紀)デル作線画のみ現存)また次に注目されるのは、作品の年代が12世紀から13世紀に集中する点である。この状況は、何らかの事情によりこの形式の像が突如流行しはじめ、拡散したことを思わせる。③ 甘粛省瓜州県、楡林窟第3窟東壁南側の壁画(西夏、13世紀?)④ 同、東壁北側の壁画(西夏、13世紀?)⑤ 山西省朔州市崇福寺、弥陀殿の壁画(金、1143年頃)⑥ 台北故宮博物院蔵、絹本著色画(南宋、12世紀)⑦ 寧夏回族自治区銀川市賀蘭県、宏仏塔天宮出土、絹本著色画(西夏、1190~13⑧ ベルリン国立アジア美術館蔵、トゥルファン、ムルトゥク出土絹本著色画断片III 6355(10~11世紀)⑨ ベルリン国立アジア美術館蔵、トゥルファン、ベゼクリク出土絹本著色画断片⑪ 広島県尾道市、耕三寺蔵、絹本著色画(13世紀)この一覧を見ると、次の二点に気づかされる。一点目は、作品がきわめて広い範囲に分布する点である。一覧中の①から⑤は摩崖石刻、石窟壁画、寺院壁画であり制作地から移動しない。これらのみを見てもその所在地は、四川省、重慶直轄市、甘粛省、山西省ときわめて広範囲にわたる。加えて、作品の所在地・発見地の中には、制作時に宋の領外にあった地も多い。例えば③、④、⑦、および⑤は当時、南宋と覇権を争っていた西夏や金の領内、⑧、⑨、⑩は西ウイグル王国領内から発見されている〔地図1〕。また、⑪の耕三寺像は、13世紀に中国画を日本で忠実に模写したものとされる(注3)。このように11の作例は宋の内外を問わず、当時その文化が及び得た極めて広い地域に散在するのである。― 170 ―― 170 ―

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