鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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作品名:負翼童子図技法材料:油彩支持体:キャンバス(麻)支持体付属物:木枠額装:アクリル板付き木製はめ込み式本額寸法(mm)作品:1156×680/額:1238×765×70修復報告修復前の所見画面は強い光沢のワニスが塗布されているが、紫外線蛍光写真から確認できる塗布むらの状況と目視での観察から、その下層にも全体的に黄化したワニス層があることがわかる〔図8、9、11〕。紫外線蛍光写真から背景部分のほとんどに加筆が施されているのがわかり、目視でも異なる複数の時期に施されたと思われる部分的な加筆が多く点在しているのが観察される。「負翼童子」の肌色部分には、しみ状の加筆の変色や過去の修復時の洗浄むら、充填剤の痕跡が多数あり鑑賞の妨げとなっている。画面全体、水平方向に多数の亀裂が顕著であり、白色あるいは茶色の充塡が施されているが、それはキャンバスが巻かれた状態で保管された時の変形に起因する亀裂と考えられる。画面上辺近くや下辺近くには、画面の左から右にわたる広範囲の帯状の充填と加筆が見られる。X線写真の観察から充塡剤は絵具層の剥落部分からかなりはみ出して施されているのがわかる。充塡箇所を覆う加筆も、さらに周辺部へ広範囲にはみ出しており、充塡剤がまばらに露出するほど雑に塗布されている〔図10〕。裏面にはワックスが部分的に雑に塗布された跡があり、破れを補修したと思われる布片がワックスで接着されている箇所も見られる〔図2〕。支持体は麻のキャンバスで木枠に張られている。木枠に中桟はなく、幅の広い四辺の枠で組まれ、右辺下方と下辺の枠上に墨書〔図2〕がある。左上を除く三隅に一本ずつ楔がある。全体の状況から、一見して過去にひどい損傷を受け、幾度にもわたり非常に雑な修復が施されてきたことがわかる。図像としては中央に翼のある童子が左手に弓矢を持ち、その腕に布をかけて石柱の横に立っており、足元には矢筒らしきものが置いてある。それ以外は、背景と「負翼童子」の位置関係や各モチーフの色味など、ほとんどオリジナル作品の状態を観察することはできない。― 191 ―― 191 ―

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