しかし、その作業痕跡の粗さから、いつの時代にどのような損傷があり、どのような人物がいかなる知識の元で修復作業を行ったかは理解し難い点が多い。さらに修復を進めてゆくことで理解が深まることを期待したい。(伊藤由美)試料片調査結果作品はキャンバスに描かれた油彩画で過去に修復されている。今回の修復に伴い、技法材料検査の一環で、試料片の調査を行った。試料片は損傷箇所近辺の6箇所から得た。調査方法は、試料片のクロスセクションを作成して光学顕微鏡で観察した後、X線マイクロアナライザー(EPMA)にて観察し、元素を確認する一方、微小部X線回折装置(MDG)により、試料片を測定して化合物を確認する方法によった。実験条件を以下に記す。EPMAは二機種を使用した。日本電子㈱社製JSM-5400(二次電子像と組成像観察用)およびJSM-6360にOxford社製エネルギー分散型スペクトルメータINCA x-sightを装着した装置 加速電圧:15kVMDGは二機種を使用した。理学電気㈱社製RINT2100にPSPC-MDG2000を装着した装置、およびRINTrapid(湾曲IP X線回折装置)線種:CuKα 管電圧:40kV 管電流:30mA コリメータ:100μmφ 計数時間:約2000秒および3000秒MDGによる測定は、試料片の表面にX線を照射して行った。調査結果結果を色調別に表にまとめた〔表1〕。以下に解説を述べる。一般的には地塗層と絵具層に分けて、顔料成分などを詳述するが、現在、地塗層そのものの特定が難しい。一見すれば褐色を主成分とする最下層が地塗で、いわゆる有色地になるが、作品側面のキャンバス部分を見ると、濃い褐色の下に白色の層があってこれが本来の地塗層とも解釈できる。画面側からの試料片では、最下層はすべて褐色あるいは濃褐色であるため、側面の観察できる白色がどこまで塗布された状況か、判別不能である。今後の課題としたい。― 193 ―― 193 ―
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