15〕は、ドナテッロの浮彫やルカ・シニョレッリの絵画作品の関連主題に現れる、地面に横たえられたキリストに覆いかぶさるような聖母の構図を共有している。後述するロッビア工房の作例の中で、地面にキリストを横たえた形式の珍しい作例〔図16〕がシエナに由来するという事実は、同工房がこのシエナの表現伝統に倣った結果であるかもしれない。一方アルベルト・ディ・ベットによる“ピエタ形式”の「哀悼」の継承者はフィレンツェのテラコッタ作例に見出される。1480年代半ばにベネデット・ダ・マイアーノによって創始されたとみられるこの枠組みは、その追随者レオナルド・デル・タッソ〔図17〕やバッチョ・ダ・モンテルーポによって用いられ、サヴォナローラの精神性を反映した。同様にこのドミニコ会士に傾倒していたアンドレア・デッラ・ロッビアの工房によって1505年頃から同形式の「哀悼」の制作が開始されると、工房の活動の拡大にあわせてトスカーナの広範囲に普及した。いずれも4人からなる“ピエタ形式”を基本形に、そこに他のマリアたち〔図18〕あるいは聖人たち〔図19〕を加えて構成されたものがやや紋切り型に繰り返された。一方で、ポー流域の作例では重要な位置を占めていた埋葬人、アリマタヤのヨセフとニコデモが登場することは極めてまれである。シエナの作例にも共通して言えることだが、ポー川流域に見られる北部作例とは異なり、祭壇上の壁龕に収められるコンパクトな形態の、高浮彫と呼ぶべきものがほとんどである。激情に駆られることのない、人物たちの静謐な悲壮感の表れもまたトスカーナ固有のものである。3.制作背景と表現形式の選択以上ふたつのグループを特徴づける表現形式の傾向を大きくまとめると、ポー川の作品群は、①床置きの完全な自立彫像②キリスト、聖母、福音書記者聖ヨハネ、マグダラのマリアに2人の埋葬人、2人のマリアを加えた8人構成を基本とする③「埋葬」の場面である④写実的かつ演劇的傾向をもつ。トスカーナ作品は、①高浮彫の祭壇彫刻②キリスト、聖母、ヨハネ、マグダラのマリアに、マリアたちないし聖人像を伴う③「ピエタ」の派生形である④穏やかで調和のとれた表現が見られる。ここでは、こうした方向性の相違がどのような制作背景の差から生じているのか考察したい。ポー川流域で制作された多くの作例の共通項として注目されるのが、兄弟会(Confraternita)との関わりである。俗人信徒会である兄弟会の中でも、とりわけ鞭打ちの苦行を自らに課す兄弟会(Disciplinati)の運動は、1260年のペルージャにおける設立からすぐにエミリア=ロマーニャ州まで到達している。彼らの活動の中心的なも― 218 ―― 218 ―
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