② 新出のイマーム・ムーサー・カーズィム廟寄進銘及びⅠ はじめに2018年度に採択された研究課題「『ティムール・ルネサンス』以降のイランにおける工芸品とペルシア語詩の関係」の主たる目的の一つは、15世紀後半から18世紀初めのイランに比定される陶製品、金属製品、テキスタイルのペルシア語詩銘文のカタログ・レゾネの作成と分析により、「ティムール・ルネサンス」の時代として名高い、君主フサイン・バーイカラー(在位1469-1506年)の治世以降のイランにおける工芸と詩との密接な関係の実証することであった。レゾネの作成にあたり、筆者は、2018年9月1日から15日まで、世界最大規模の近世イラン製金属器コレクションを有するカタール国のドーハ・イスラーム美術館(Museum of Islamic Art, Doha)にて所蔵品調査を遂行した。紙幅の都合により、同館で調査した全ての作品について紹介することはできないが、とりわけ史的価値が高く、あらゆる視点からの議論の対象になり得る、新出の真鍮製燭台(所蔵番号:MW.152.1999、以下では《ドーハ燭台》と表記)〔図1〕について、以下では詳細に検討する。《ドーハ燭台》は、1999年にHumayzi Collectionからドーハ・イスラーム美術館に寄贈された高さ11.4cm、直径(底部)22.5cmの真鍮製の燭台である。出版歴・展示歴はなく、非公開のキュレトリアル・ファイルにおいては、「ティムール朝」時代(1370-1507年)または「1400-1500」年の「イラン」製であると登録されているのみで、銘文の解読・訳出等は一切試みられていない。器形に関して言えば、本作品は完品ではなく、竿と蝋燭を載せる部分が切り取られ、円錐台形に近い形状を有する台座のみが現存している状態である。また、技法に関して言えば、型を用いて鋳造されたのち、表側・裏側双方の表面に線刻による装飾が施されている。なお、鍍金や象嵌による装飾が試みられた形跡はない。《ドーハ燭台》の表側の装飾は、円形の底部と平行するように走る打ち出された区切り線を境に上下に分割されている。その区切り線の上部においては、環状に配置された2匹の闘争する強弱の動物を内包する縦向きの紡錘形の枠〔図2-a、b、c、d〕と、ナスタアリーク体と呼ばれる、14世紀前半以降段階的にイランで発達したアラビア文字書道の字体によるペルシア語詩銘文を囲うカルトゥーシュ〔図3-a、b、c、d〕とが、それぞれ4パターンずつ時計回りに交互に並べられている(注1)。紡錘形の枠は、ペルシア語詩銘入り真鍮製燭台について研 究 者:東京大学 東洋文化研究所 特任研究員 神 田 惟― 12 ―― 12 ―
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