㉔ 平安時代初期十一面観音像について─薬師寺像の制作年代に関する考察─〈法量・形状〉― 257 ―― 257 ― 丹 村 祥 子研 究 者: 大阪大学大学院 文学研究科 博士後期課程 龍谷大学 龍谷ミュージアム リサーチアシスタント本研究では、奈良・薬師寺に伝わる3軀の十一面観音像のうちの1軀であり、現在奈良国立博物館に寄託されている十一面観音像〔図1〕の制作年代についての考察を行う。本像の制作年代は、一般的に奈良時代・8世紀後半とされているが、平安時代の承和年間(834~848)前後の作品との類似を重視する見解もある(注1)。その作風は8世紀後半の唐招提寺木彫群にみられる量感や刀法の冴えを誇示する造形感覚とは異なり、かつ将来檀像を手本として制作されたとみられることも重要である(注2)。薬師寺像に関する先行研究(注3)では、頭上面の配置構成や面貌表現において、奈良・与楽寺十一面観音像〔図2〕(注4)と共通することが指摘されているものの、本像が議論の中心とされることはほとんどなかった。一方、与楽寺像は、その制作時期及び制作地について、中国・唐代またはわが国の奈良時代の可能性が指摘されている(注5)。奈良時代から平安時代へと移行する過渡期に位置する両像は、日本における檀像需要の様相を知るうえで重要であり、ひいては当該期の十一面観音信仰について考える手がかりになりうると考える。よって薬師寺像について、あらためて様式・形式の検討を行う。また、与楽寺像は頭上に特徴的な冠を戴いているが、実は薬師寺像の頭上面が戴く頭飾もきわめて珍しい形式である。薬師寺像の基礎的データはじめに薬師寺像の基礎的データを記す(注6)。像高191.5cm(現状)。針葉樹材(カヤ)の一木造りで、像の正面中央からやや左の位置に木芯を込める。髻を高く結い、豊かな垂髪を左右の肩にかける。頭上に10面を戴く(頂上仏面は上半身を伴う。そのほかの頭上面は上段1面と下段2面からなる3面を1単位として配置する)〔図10〕。条帛と天衣を懸け、裙を着ける。胸飾〔図3〕、瓔珞、臂釧〔図4〕をつける。胸飾: 最上段に大きな粒を交えた玉繋帯があり、基本帯は上から紐一条・連珠・紐一
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