① 奈良県教育委員会文化財保存課編『与楽寺の十一面観音檀像』、奈良県広陵町教育委員会、論集1)、竹林舎、2012年、32-55頁②奈良国立博物館編『なら仏像館 名品図録』、2016年、38頁③同編『なら仏像館 名品図録』、2018年、38頁⑵『仏説十一面観世音神呪経』をはじめとする経典では十一面観音像を造る場合に、白檀の木を用いることが規定される。そして、檀像は金箔や彩色を施さず、素地仕上げが基本である。さらに、本体から遊離した装身具や天衣にいたるまでのすべてを一材から彫出する細密な彫法が特徴的である。また、小像であることも檀像の条件の1つとして挙げられる。この「小像」の寸法についても、経典で規定されている。現在わが国に残る十一面観音の唐製檀像である奈良・法隆寺像(九面観音、唐・7世紀、像高37.6cm)、東京国立博物館像(多武峰伝来、唐・7世紀、像高42.1cm)、山口・神福寺像(唐・8世紀、像高44.7cm)は、上記の条件を満たす檀像作例である。これら中国で造像された檀像が日本に将来され、日本でもその影響を受けた木彫像が多く造られた。しかし、日本では白檀は産出されず、経典には白檀が手に入らない場合にはその代用として「柏木」の使用が許されており、日本では「柏木」をカヤに読み替えて、白檀の替わりにカヤ材を用いたいわゆる代用檀像とよばれる広義の檀像制作が行われる。⑶薬師寺像に触れた主な文献は下記の通りである。①副島弘道『十一面観音像・千手観音像』(日本の美術311)、至文堂、1992年② 長谷川誠「十一面観音」『奈良六大寺大観 補訂版』6巻(薬師寺全)、岩波書店、2000年、71-72頁③東京国立博物館編『仏像 一木にこめられた祈り』、2006年、98-99・257-258頁④藤岡前掲論文、注⑴①。⑤奈良国立博物館編『なら仏像館 名品図録』、2013年、39頁⑥同編『なら仏像館 名品図録』、2016年、38頁⑦同編『なら仏像館 名品図録』、2018年、38頁⑷与楽寺像に触れた主な文献は下記の通りである。2003年②奈良国立博物館編『古密教 日本密教の胎動』、2005年、156頁③「木造十一面観音立像」『月刊文化財』、2005年、22-23頁④東京国立博物館編『仏像 一木にこめられた祈り』、2006年、60・251頁⑤ 鈴木喜博「檀像の請来と日本的展開 ─栢木彫刻論序説─」『鹿園雜集』13、2011年、31-36頁⑥藤岡前掲論文、注⑴①。平成30年(2018)6月10日、保存会ならびに井上義光氏(広陵町教育委員会事務局文化財保存課)の立ち合いのもと、藤岡穣氏(大阪大学大学院)とともに調査および撮影を行った。調査にあたっては、鏡山智子氏(奈良県文化財保存課)、山口隆介氏(奈良国立博物館)、王珏人・石光由樹子の各氏(以上、大阪大学)、奥野早輝子氏(神戸大学)の助力を得た。⑸与楽寺像(像高31.1cm)は、法隆寺像・東京国立博物館像・神福寺像の3軀と比較すると、胸飾などの装身具は幾分控えめな印象をうける。しかし与楽寺像が、他の唐製檀像よりもさらに一回り小さいことを考慮すれば、腰紐が膝あたりで蝶結びの輪をつくり、これに瓔珞を通し、足先まで続く様子を1材から彫出する高度な技術は、唐製檀像に比肩するものと言える。なお、奈良・唐招提寺には鑑真とともに来日した中国の工人が750~760年代に制作したとみられる木― 263 ―― 263 ―
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