鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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㉕ 二条城二の丸御殿の内部装飾の全体構想について─廊下杉戸絵を中心に─研 究 者:元離宮二条城事務所 学芸員  松 本 直 子はじめに寛永3年(1626)に完成した二条城二の丸御殿障壁画は、城郭御殿の内部装飾の規範が確立しつつある画期の作品と位置づけられ得る重要な作例である(注1)。将軍家の御殿の内部装飾は、建築と一体となって、幕府権力およびその支配のあり方そのものを、御殿を使用する者に体感させるために、各棟、部屋、廊下の役割に応じて、それぞれの意匠や技法が選ばれている(注2)。内部装飾のうち、室内の障壁画に関しては、筆者問題を中心に研究が蓄積されてきた。しかし、天井画や御殿の廊下を区切る杉戸絵に関する研究は、それに比すると少数である。本研究は、二条城二の丸御殿の内部装飾について、その全体構想に迫ることを大きな目的とし、これまで詳細に調査されてこなかった廊下杉戸絵について、総合的に調査し考察を行うものである。本報告においては、研究の前提となる杉戸の画題と、当初の位置を確定することを目指す。その上で、筆者問題について、室内障壁画の同問題と関わるところを中心に、若干の考察を加える。1 二の丸御殿杉戸絵の概要と画題重要文化財に指定されている二の丸御殿障壁画1016面中、杉戸絵は156面を数えるが、そのうち2面が壁にはめ込まれた杉板絵であり、別の2面は裏面が舞良戸になっている。これらの例外を除いて、すべて板の両面に作画されており、員数は80枚である(注3)。杉戸絵の基本的な資料となっているのは、「重要文化財指定書」(昭和57年(1982)指定)であり、各杉戸絵の画題とその属する棟が記載されている(注4)。一方、指定以前に出版された『元離宮二条城』において、土居次義氏と武田恒夫氏によって、画題と御殿における位置が提示されていた(注5)。また、『國華』「二条城特集号」では、武田氏によって再び全画題と配置図が紹介された(注6)。杉戸絵の画題は、指定書と前述の先行研究で一致していないものが複数ある。今回、作品と実際の植物や、狩野派の植物の作例等と比較して、画題を一部修正し〔表1〕にまとめた。まず大広間北入側の《牡丹図》(〔図1〕⑮西)は、葉の形から《芙蓉図》― 268 ―― 268 ―

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