鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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(1)那須烏山市・松倉山観音堂菩薩立像は榧材の一木造り。像高156.5cm(注16)。髻。第1指・2指を伸べる八臂の姿で、条帛、天衣、鹿皮をかける。左肩から大腿部をわたり右腰脇にまわる天衣に、右肩から膝上をわたる天衣を内側から2回まきつけ外側に出したのち、左腰後方にまわし、その先を垂らす。折返し付の裙を腰帯でとめる。(9)25番 筑波山大御堂寺つくば市筑波真言宗豊山派の寺院で、本尊は千手観音菩薩坐像。延暦元年(782)徳一が開創、のち弘法大師空海が真言密教道場として、知足院中禅寺と号したという。本尊は、写真によると近世と見受けられる。坂東札所御本尊御真影にみる姿と同様である。2 三十三観音札所周辺寺院にみる観音諸像松倉山観音堂は那須烏山市大木須と芳賀郡茂木町の境界の松倉山山頂に位置する山岳寺院。20番西明寺から21番日輪寺にむかう途中にある。堂宇が建っていたとみられる平場が3か所ほど確認される。山頂に一宇の堂が残り、県指定文化財の5軀の菩薩立像が厨子内に安置される(注17)。以下向かって左から確認する。向かって左端安置の菩薩像は、地髪部に孔があり十一面観音菩薩立像〔図7〕とみられる。寄木造りの彩色像で現存高は137.5cm(県指定の調書では像高166cm)。頭部が胸部に潜り込む形で収まる。髻(亡失)、天冠台は紐二条で、連弧状にあらわす。天冠台下の髪際はふくらみをもたせ、疎彫りに毛筋彫り。後頭部は毛筋彫りのみを施す。条帛、天衣を懸け、折返し付の裙と腰布を着ける。構造は体幹部を左右で矧ぎ、前後に三材を寄せ、内刳りを施す。さらに背面部には天衣部を左右に各一材矧ぐ。挿首。面部と後頭部の中間材は一部亡失する。その一部分が耳を彫刻する。全体の各部分に複数の部材を矧ぐ。両肩は各二材を矧ぐ。両腕の肘先が欠失する。指定では江戸時代となっているが、生々しい面貌表現や、引き締まった胴部、横から見たバランスの良い頭体部、少しかためではあるが自然な衣文表現などの特徴から、鎌倉時代後期に㴑る可能性があると思われる。なお5軀の中で本像のみ墨書銘がない。左から2番目の聖観音菩薩立像は一木造りで彩色がのこる〔図8〕。像高187cm、髪際高158cm。高髻は下元結と上元結で結う。条帛をかけ、天衣をまとい、裙、腰帯をつける。前面部は頭体幹部を通して一材から彫成する。後頭部に一材、背面部に左― 346 ―― 346 ―

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