鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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右各一材、腰下から地付き部にかけて左右各一材、両肩に各一材を矧ぐ。いずれも内刳は施さない。応永2年(1395)銘がある(注18)。須弥壇中央の観自在菩薩立像は、寄木造りで彩色。像高180.0cmで髪際高は175.0cm〔図9〕。髻(亡失)。天冠台は紐二条・列弁形。地髪部は疎彫で毛筋彫を施す。両耳を髪が二束わたる。体部は条帛をかけ、天衣をまとう。裙を折り返してつける。前後二材からなる頭部を挿首する。体部は前後二材を矧ぎ、内刳りを施す。両肩以下各一材、肘と手首で別材を矧ぐ。現状右手首を別置する。裾の折り返し部分の一部に別材を寄せる。足先は別材(亡失)。像底内刳部は地付部から約12cm余りの高さで棚状に彫り残す。首枘背面、像内内刳部前面材と同背面材の三か所に銘記を記し、嘉吉癸亥(嘉吉3年、1443)の年紀がある(注19)。次の十一面観音菩薩立像は寄木造り、彩色で像高178.0cm、髪際高173.5cm〔図10〕。髻(亡失)。天冠台は紐二条・列弁形。天冠台上地髪部に化仏を付けたとみられる痕跡(穴)が残る。天冠台下の地髪部は疎彫に毛筋彫を施す。両耳を髪が二束わたる。体部は条帛をかけ、天衣をまとう。裙を折り返してつける。腰布はつけない。頭部は前後二材を挿首する。体部は前後二材を矧ぎ、内刳りを施す。両肩以下各一材、肘と手首で別材を矧ぐ(現状手首を別置する)。裾の折り返し部分を一部別材で矧ぐ。足先は別材(亡失)。像底内刳部は地付部から12.8cmの高さで棚状に彫り残す。像内は火災時に火がまわり黒くなっている。観自在菩薩と同年の作(注20)。右端安置の聖観音菩薩立像は寄木造りで彩色、玉眼嵌入の像で、像高は102.2cm。髻は亡失し、天冠台、宝冠をつける。地髪部は前面に疎彫りに毛筋彫、背面にも毛筋彫をほどこす。鬢髪一条耳をわたる。両肩口に垂髪をあらわす。条帛、天衣をかける。瓔珞をあらわす。左腕は肩から先亡失。裙(折返し付き)、腰布を巻きつける。前後二材からなる頭部を挿首する。体部は前後左右に四材を矧ぐ。両肩、肘先、足先以下別材。左腕は肩から先を亡失する。銘記にみる天明2年(1782)の作とみられる(注21)。以上5軀の菩薩像は最後の江戸時代の作例以外は、すべて顔が厨子の上方に位置し、尊顔を拝せないことから、当初は別の堂宇に祀られていた可能性が高い。(2)那須烏山市・滝尾山太平寺坂上田村麻呂創建の伝承をもち代々那須氏の崇敬を受けた寺院で、千手観音菩薩立像(県指定)を本尊とする。像高228cm、髻をあらわしその前に頂上仏面、列弁形の天冠台の上に一列に化仏をあらわす。三道を刻み、合掌手、宝鉢手をあらわす。頭頂部から十一面、合掌する腕と宝鉢を持つ大手そして足元までを一材で彫成する。正面― 347 ―― 347 ―

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