鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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注⑴Stewart Buettner, "John Dewey and the Visual Arts in America," The Journal of Aesthetics and ArtCriticism, vol. 33, no. 4 (Summer, 1975), pp. 383-391; Dennis Raverty, Struggle Over the Modern:Purity and Experience in American Art Criticism, 1900-1960, Vancouver: Fairleigh DickinsonUniversity Press, 2005.おわりに本報告では、これまでほとんど研究されてこなかった『ポシビリティーズ』誌に着目し、編集に中心的に関わったローゼンバーグの批評と、同誌の記事を照らしあわせながら、そこで新たに提示される芸術観を探った。ローゼンバーグの近代詩論を手がかりに、ポーとヒュルゼンベックのテクストを読むと、近代社会の芸術家の役割とは、インスピレーションを自ら生起させ、それを記述する方法を新たに見出すことであるという『ポシビリティーズ』誌の理念が浮かび上がる。そして、ローゼンバーグが後に作り出した「アクション・ペインティング」という概念もまた、ヒュルゼンベックの詩作理論を引き継ぎ、画家が媒体との交流によって得たインスピレーションを直接的に記述する「行為」として提起されていることがわかった。さらに本報告は、実存主義的なアクション解釈がこれまで看過してきた媒体への関心に着目することにより、ローゼンバーグのインスピレーション論が、デューイの芸術論に基づいていることも示した。このように、ローゼンバーグのアクション・ペインティング批評の重層的な文脈を明らかにすることは、従来とは異なる視座から抽象表現主義を捉え直し、アメリカ近現代美術史の新たな系譜を示すことになるだろう。紙幅の制限により、本報告では社会思想家としてのデューイのプラグマティズムを、ローゼンバーグがどのように引き継いでいるかという問題にまでは踏み込むことはできなかった。デューイの芸術論では、社会における作者、作品、観者の相互作用的な関係性が重視される。こうした観点からも一連のローゼンバーグの論考を再検討し、別稿であらためて論じるつもりである。― 440 ―― 440 ―⑵Robert Motherwell, et. al. (eds.), Possibilities 1(Problems of Contemporary Art, no. 4)New York:Wittenborn, Schultz, 1947.Research Press, 1990, pp. 33-39.⑸Robert Motherwell, Harold Rosenberg, (Untitled), Possibilities 1, p. 1.⑹Ibid.⑶第1号の奥付に続刊の予告が印刷されている。⑷Ann Eden Gibson, Issues in Abstract Expressionism: The Artist-Run Periodicals, Ann Arbor: UMI

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